- コピーライティングで絶対に欠かせない「正しい日本語を使う能力」。
- ブランドの存在意義を言葉にするステートメントライティングで文章力を磨く。
- 文章を洗練させる「一文字でも短く書く」ルールを遵守する。
広告コピーにおける文章術の極意
コピーライターが関与するのは言葉にまつわるあらゆる領域
僕は20年以上コピーライターという職についていますが、その間じつにさまざまな種類の文章を書いてきました。グラフィック広告のキャッチフレーズ、ボディーコピー、CMのナレーションはいうに及ばず、商品パッケージの文言、プレスリリース用の文章から社長のスピーチ原稿、ブランドのステートメント、企業の経営理念まで、クライアントから求められれば、それがどんな種類のものであれ文章という形にしてきました。
あるファッションブランドに依頼され、短編小説を書いたこともあります。もちろんそれまで小説を書いたことなどありません。しかしクライアントに求められれば応じるのがプロです。深夜にこつこつと執筆し、文庫本にして30ページほどの短編小説を書き上げました(幸いクライアントには喜んでいただけました)。
このようにコピーライターが関与するのは言葉にまつわるあらゆる領域です。そこで必要なのは専門職としての技術。ひらめきや思いつきなどには頼らない、たしかな言葉の技術が求められます。ここではあくまでも僕の経験に基づくものではありますが、コピーの種類別の文章表現力についてご説明したいと思います。
文責はクライアントだからこそ正しい日本語を使う力が最重要
「コピーを書く上で絶対に欠かせない能力は何だと思いますか?」とコピーライター養成講座の受講生に聞くと、「ユニークな発想力」や「言葉を自在に操る力」などの答えが返ってきます。
場合によってはそういう能力が必要かもしれませんが、絶対に欠かせないとなれば、僕は「正しい日本語を使う能力」と答えます。そんなの当たり前じゃないかという声も聞こえてきそうですが、その当たり前が意外と難しいのは文化庁が実施している「国語に関する世論調査」を見ても明らかです。「天地天命に誓って」は正しくは「天地神明(てんちしんめい)に誓って」ですが、過半数の人が誤用しています。このように日々使用している言語には思わぬトラップが潜んでいるのです。
日常会話で誤用は許されても、文責がクライアントに属してしまうコピーでは絶対に避けなければなりません。僕はコピーを書く時だけは自分の日本語の知識、能力のすべてに疑いを持ち、一字一句を辞書で調べています。Macにインストールしている『広辞苑』は僕にとって最重要の仕事道具といえます。
キャッチフレーズはいずれAIが書くようになる?
キャッチフレーズの考え方は「何をいうか」と「どういうか」にわかれるというのはコピーライティングの基礎中の基礎ですが、このうちの「どういうか」を考えるのは、近い将来AIが人間に取って代わるだろうと推測しています。
実際ネーミングに関していえば、AIはすでに実用レベルに達しており、任意の単語を打ち込めばAIが膨大なバリエーション(つまり、「どういうか」)を自動で生成してくれます。
「とはいえ、さすがに心の機微に触れるコピーはAIには無理だろう」と感じる人もいるでしょう。しかし過去の表現を学習し、それを模倣するのはAIにとっては朝飯前。音楽の世界ではAIが作曲した「バッハのような曲」が聴衆を欺くことに成功しています。夢のない話ばかりで恐縮ですが、だからこそ人間のコピーライターは「何をいうか」を見極める能力を徹底して磨く必要があると思います。僕は宣伝会議賞の講評で毎年視点の重要さに触れていますが、それは公募の賞においても、実際のビジネスにおいても共通するポイントだと思います。
広告出稿の変遷によりボディーコピーは死んだのか?
広告会社の若手コピーライターに「最近ボディーコピーを書いていますか?」と聞けば、多くの人が「書いてない」と答えるのではないでしょうか。それも無理からぬことで、これまでボディーコピーの桧舞台だった新聞広告や雑誌広告の仕事が目に見えて減っているので、書く機会が少ないのです。
しかしクライアントから「この商品の特徴は言葉でしっかりと伝えたい」という依頼が突然来ないとはかぎりません。「定年を控えた世代が共感できるコピーをお願いします」などと頼まれたら、20代のコピーライターはいったいどうすればいいのでしょうか。親や上司に話を聞くことで定年世代の心情を知ることはできても、それを文章に落とし込むのはたしかな文章技術が必要。
そこで技術の修練のためにも僕がおすすめしたいのはステートメントを書くことです。
文章表現力を磨く修練法 ステートメントライティング
ステートメントは「宣言」や「表明」を意味し、ブランドの存在意義を表明する文章と定義...