先行きが不透明な状態が続く中で発生する「デマ」は、人々のどのような心理状態から発生しているのだろうか。あるいは「元の生活に戻りたい」という心理を、どのように捉えればよいのか。人々の心理状況から得られるマーケティングのヒントを、心理学を専門とする、立命館大学のサトウタツヤ教授が解説する。
「知りたい」けど「わからない」コロナに関するデマが広がる理由
ウイルスは生物ではないので、意思を持ちません。感染は人を介して行われます。だからこそ感染拡大を防止するためには、人の行動をどのようにコントロールするかが重要です。
人々がどのように新型コロナウイルス感染症という状況に向き合っているのか、私たちが実施した調査(回答者267名)から少し紹介してみましょう。主な回答者属性は、首都圏在住48%、関西圏在住25%、男女ほぼ半々、21-40歳、41-65歳がほぼ半々、大卒が90%(詳しくはサトウ他 2020参照)。
この調査によれば、人々は「公的機関、政治、宗教をあてにしていないが、自分や自分の大切な人が罹患するのは怖い」、「ガイドラインをもとに自分を律している」、「収まるまでには一定の時間がかかるという見通しのもと中長期的には楽観的な展望をもっている」ことがわかりました。社会や制度は信頼していないけれど、親密圏や世間への信頼が醸成されていることは重要だと考えられます。
我慢強い日本人という徳(Virtue)が見て取れるのですが、実際にはその裏の面も目につくようになってきています。それは自粛警察のような動きだったり、罹患者に対する自己責任論だったりします。いわゆる「デマ」の問題もあります。
デマとは本来政治的なもので、他者をコントロールしたり扇動するための意図的な情報操作ということですが、今では「自分が信じていたのに結果的にウソだと分かったこと」と捉えられています。コロナ禍における「デマ」には、息を止めて3分我慢できないとコロナに感染しているとか、お湯を飲むと予防ができるというものがありました。
なぜ、こうしたデマが流布したのか。それは、新型コロナウイルスについては「重要な情報が曖昧」だからです。(1)新しい感染症であり予防法はわからない、(2)日本では検査数が多いとはいえないから誰が感染しているかわからない。こうした「わからない」ことが「わかる」ように思える情報だったからこそ、デマとして拡散されていったのです。
心理学者・オールポートがデマの公式を提唱しています。デマや噂は重要性と曖昧性の積(掛け算の答え)。多くの人が知りたい(=重要)情報であるにもかかわらず、確かな情報が得られない(=曖昧)状況が組み合わさると、それが嘘でも広がってしまうのです。
デマの流布~重要さ×曖昧さ
※「~」は比例を表す
現在のように人々の関心、つまりは知りたいこと、わからないことが一点に向いている時は、結果としてデマも大きくなりがちだといえます。コロナへの完全な対抗策は見えていませんが、とはいえ...