感染拡大防止のために、私たちの人との接触機会は大きく減少した。このことは経済や文化に大きな打撃を与えている一方、わずらわしい人間関係から解放されるきっかけにもなっている。人々のつながりは、コロナ禍でどのように変化し、今後企業活動にどんな影響をもたらすのか。津田塾大学の萱野稔人教授が解説する。
時代に逆行する「人との接触を減らす」行為
まずは簡単に問題の整理から始めたいと思います。新型コロナウイルスの感染拡大は社会にさまざまな影響を与えています。では、その影響の根幹をなすものは何でしょうか。
それは一言でいうなら、「感染拡大を防止するためには人との接触を減らさなくてはならない」という事態です。人との接触を減らさなくてはならないからこそ、全国一斉休校の要請も施設やイベントへの休業要請も出されました。外出自粛の要請がなされたのも同じ理由です。多くの企業で在宅勤務が導入されたのも、従業員が通勤や職場で他人と接触してしまう機会をできるだけ減らすためでした。
つまり、社会に対するコロナ禍の影響を考えるということは、究極的には、人々の接触機会の減少は社会にどのような影響をもたらすのかを考えることにほかなりません。
振り返れば、人との接触機会を減らそうという動きがここまで広がったのは、現代においてはほぼ初めてのことです。とりわけグローバリゼーションが推進されて以降は、国籍も言語も価値観も異なるさまざまな人たちが積極的に交流すること(つまり接触すること)こそが大切だと、広く考えられてきました。
この点で言えば、コロナ禍はまさに時代の動きに逆行するような作用を及ぼしています。だからこそ余計に、コロナ禍の影響については、人々の接触機会が減少することは現代社会にとってどのようなインパクトをもつのかを考えなくてはなりません。
接触機会の減少はネガティブな評価だけではない
多くの場合、コロナ禍による接触機会の減少はネガティブにとらえられています。メディアでの論調もそうした傾向にあります。たしかに、人との接触機会を減らさなくてはならないという事態は多くの人に不自由とストレスを強いています。これまでのように、気軽に飲み会には行けなくなりました。旅行にもなかなか行けません。高齢の親に会いに行くことも難しくなりました。人との接触機会の減少はもちろん経済も停滞させます。
しかしその一方で...