新型コロナウイルス感染症の流行拡大の影響を受け、オフラインからオンラインへと、私たちの生活スタイルは大きく変容している。新しく登場した生活スタイル、価値観を捉えることができれば、企業もまたオンラインへのシフト、すなわちデジタルトランスフォーメーションが実現しうるのではないか。製造業企業に所属し、マーケティング実務を担う玉井博久氏が全6回の連載で、その可能性について解説していく。
前回の連載では「コロナ禍で製造業が得られるマーケティングの3つのヒント」として「ミーニングフル」、「エンゲージメント」、そして「セルフディフェンス」を紹介した。これらは人々の間に新しい価値観、生活様式として浸透しつつある概念だ。今回の連載では、ひとつ目の「ミーニングフル」を捉えることで、モノがある製造業だからこそできる広告の形を考えたい。
ひとりで黙々とではない体験 オンラインで人とつながる価値
外出自粛により生まれた時間を有意義に使いたいという気持ちは、日本に限らず、どの国にでも見られている現象だ。
時間を有意義なものにするために、人々は家の中でエクササイズをしたり、趣味に没頭したり、新しい資格取得のための勉強をしているわけだが、これらの時間にオンラインを活用し、他者や何らかの社会的活動とつながることで、自分ひとりで取り組んでいたら得られない何かを得ようとしているのも特徴だ。
例えば、家中エクササイズにしても、ひとりで黙々と取り組むのではなく、オンライン動画を見ながらエクササイズをする。勉強にしても、Eラーニングの講義を受講する。外出自粛によって生まれた時間を「ミーニングフル」なものにするために、自分ひとりで取り組んでいたら得られないものを得ようとオンラインにつながっているのだ。
ひとりでは得られないものの筆頭が、専門的情報だ。エクササイズにしてもオンラインの学習コンテンツにしても、そこには一般の生活者が知らない専門的な情報が含まれている。オンラインで他者とつながることで、自分ひとりで取り組むよりも、はるかに有意義なエクササイズや学習の時間を手に入れることができるのだ。
この現象を企業側の視点から捉えると、人々の日常を「ミーニングフル」なものにできる専門的情報を持ち合わせていれば、たとえ外出自粛のような事態が起こっても、企業は消費者にアクセスできることになる。そして、この専門的情報によるコミュニケーションは製造業こそ活用できるのではないかと考えている。
モノづくりの部分ではなく、モノづくりに至るまでに企業内で活用されている専門的情報・知識に焦点を当てることで、製造業は加速するオンラインシフトの波に乗り、事業の可能性を拡げることができるのではないかと考えるからだ。
その一例として、あるワインメーカーの取り組みを紹介したい...