東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向け、ゴールドパートナー企業をはじめ、多くの企業が、この好機をイノベーションに生かそうと取り組みを進めてきた。大会は延期になったが、1年という時間が増えたことがチャンスにもなる。ゴールドパートナー企業の1社、NECの山本啓一朗氏が聞き手となり、日本オリンピック委員会(JOC)の常務理事(兼)事務局長である細倉浩司氏と総合企画部・副部長の脇本昌樹氏に話を聞く。
4月中旬、とあるオリンピアンの方とオンラインでお話した際、この状況下でのコンディション維持の難しさについて伺いました。やはり、自宅での練習には限界があるとのこと。また今後の選考会などの見通しが立っていないことも、コンディショニングの難しさに拍車をかけているようです。それでも「世の中全体が、スポーツどころではないので、仕方ないですよね・・・」と言いながら、画面越しに見せてくれた笑顔に勇気をいただきました。
それから約1カ月後の5月14日に全国39県の緊急事態宣言が解除されました。その翌日、私は日本オリンピック委員会の常務理事(兼)事務局長である細倉浩司さんと総合企画部・副部長の脇本昌樹さんにオンラインでインタビューを行いました。
時間があることを前向きに捉え語学の勉強を始める選手も
山本:2021年の大会日程の決定を受け、率直な気持ちをお聞かせください。特に延期が決定した3月末からの状況を伺えますか。
細倉:大会延期が決定した際は正直に言って驚きました。過去に中止という判断はありましたが、延期になったことはなかったからです。Rio2016の際にも、ジカ熱(ジカウイルス感染症)の問題が3カ月前に発生しましたが、それでも開催できました。現在(5月15日時点)となっては、致し方ないことだったというのが正直な気持ちです。
山本:来年の開催も未だ危ぶまれる状況ですが、その点についてはいかがですか。
細倉:今までは、新型コロナウイルス感染症が社会全体の問題となっており、スポーツだけをどうこう議論する状況にはありませんでした。しかし、5月14日に39県で緊急事態宣言が解除され、「新しい日常」が呼びかけられる中で、選手たちがトレーニングの再開に向けてどんな準備が必要となるか、話し合いを始めたところです。当然、新型コロナウイルスの脅威が消えたわけではありません。再度の感染爆発の危機(第2波、3波)への備えが必要だと考えています。
山本:現在、ナショナルトレーニングセンターも閉鎖されている状況ですが、選手の皆さんはどのような様子ですか。
細倉:状況は、人それぞれですね。自宅でトレーニングをしたり、近所をランニングしたり、全く気分を変えて語学の勉強をしている方もいるみたいです。澤野大地さん(JOCアスリート委員長)も、今は練習をせず気分転換のための時間に当てているそうです。澤野さんはRio2016の直前に骨折して練習ができなくなったのですが、それが逆に休息と息抜きと気分転換になったそうで、この時間を前向きに捉える選手もいるみたいですね。
山本:選手の立場(学生・社会人)や競技の特性によっても異なりますか。
細倉:異なりますね。一概にすべてが緩和されることはなく、競技の特性(屋内/屋外、接触/非接触)によって自粛要請を緩和するスピードも変わってくると思います。
学生スポーツの自粛が与える中長期的な影響を懸念
山本:大会延期に伴って、どんな難しさがありますか。
細倉:一番難しいのは、新型コロナウイルスが今後、どのような影響を与えうるのか明確にはわからないことです。現在、延期に伴う大会準備が進められていますが、出場権獲得に関わる大会開催の実施時期が未確定の競技もあるため、選手の強化計画も立てられないのです。そこが一番のネックになっています。
また競技団体も活動が大きく制限されているため、入場料収入や放映権収入などを得ることができず、財政的に苦しくなっているところもあります。その他、学生の競技大会の中止もスポーツ界に影響を与えています。
具体的には今年、卒業を迎える中学3年生などは、「もう大会はないよね・・・」とあきらめモードが広がって、競技団体に登録する人数がガクっと減ってしまっています。これにより、登録料なども減収となりますし、競技人口の減少そのものは中長期的に見て、各競技団体の財政に加えて、競技の普及にも大きな影響を与えうると懸念しています。
脇本:学生ということでいえば、大会が開催されないので、例えばスポーツに力を入れる高校や大学も推薦で選手を集める方法がなくなってしまっている。優秀な選手を発掘する場もなくなってしまっているのです。
細倉:オンライン面談でスカウトする、という学校もあるそうですよ。
山本:企業の就職面接や新人社員研修もオンラインですからね。マーケティングの観点では、スポーツ産業にどのような影響がありますか。
細倉:各スポーツチームの試合が開催されない状況ですので当然、スポンサーにとっては露出機会やアクティベーションの機会がなくなってしまう。そこでスポンサーを辞めるところ、あるいは辞めなくてもスポンサー費の減額を求めるところもあると聞いています。
山本:TOKYO2020パートナーも元々の権利は今年いっぱい(12月末)で、来年についてはこれからの調整になりますので、難しい側面がありますよね。
細倉:これまでの取り組みなどを含め、かかったコストを考えると、パートナー企業各社の皆さんには、やはり本番をきちんとパートナーとして迎えていただきたい。そして、その先にどうつなげていくかを一緒に考えたいですね。
山本:逆に、大会が1年延びたことで新たにできること、またはチャンスに変えていけることなどはありますか。
脇本:過去には、夏と冬のオリンピックを同時に開催した年もありました。今回も夏の大会のすぐ後に冬の大会が控えているので、上手く連携して選手たちをサポートし、盛り上げていくことが可能だと考えています。
細倉:逆転の発想ですね。ポジティブ!
脇本:TOKYO2020と北京2022冬季大会が会計年度的に同じ年度(2021年度)になるので、かけられる予算は限られてしまうんですけどね。ただ...