少子高齢、人口減少など、いま日本という国の形が足元から大きく変容しつつあります。「ポスト2020」のマーケティング戦略は、どうあるべきなのか。今回はBtoBtoCが主軸となるメーカーにおけるD2C事業、さらにそこから広がるデータ利活用戦略をテーマに、チーターデジタルの加藤希尊氏がUCC上島珈琲の染谷清史氏にオンラインで話を聞きます(本文中・敬称略)。
顧客にとって価値ある体験を通じ趣味や嗜好、0 Partyデータを取得
加藤:日本市場の成熟化、さらにはCOVID-19の感染拡大の影響で、新規顧客獲得に軸足を置いたマーケティング活動は、ますます難しくなっています。チーターデジタルでは、この環境下においては趣味・嗜好や購入意向など顧客の意図で提供される個人的データである、0 Partyデータを活用したロイヤル顧客を対象としたマーケティングが重要である、と提唱。その実行を支援してきました。
染谷さんが扱うコーヒーは、まさに嗜好品。そのデータ利活用に際しては、0 Partyデータが非常に鍵になると考えます。会社全体のデータ利活用戦略、さらには新たなD2C事業も立ち上げていらした染谷さんの取り組みは、成熟時代の日本における大手メーカーの参考になると考えています。
染谷:私はリクルートライフスタイルでCRMなどを担当して2018年に当社に移籍し、データ利活用戦略などを担当しています。2019年2月には、当社が運営するカフェの「上島珈琲店」のLINEアカウントにポイントカード機能を追加。さらに百貨店などに出店しているコーヒー豆販売店の「UCCカフェメルカード」でもLINEでのポイントカード機能の利用を可能にし、顧客データの統合を図ってきました。
さらに2019年3月からは利用者の好みに合わせたコーヒーを販売するサービス「My COFFEE STYLE」をスタート。専用Webサイトで申し込む、あるいは現在関東で3店舗運営する「COFFEE STYLE UCC」でコーヒーを試して味覚や感想をサイトに登録していただくと、好みに合わせたコーヒー豆が毎月届くというサブスクリプション型のサービスです。
加藤:新しい豆を試すたびに自分の嗜好が可視化されていく。サイト内の機能「My COFFEEマップ」は顧客にとっても魅力的な体験ですね。企業にしてみれば、顧客の嗜好性データが取得できるわけですが、UCCさんのように魅力的な体験の提供なくして、データを提供しようと思ってはもらえない。こうしたコミュニケーションの工夫は非常に重要です。
染谷:商材の特性上、行動データだけでなく、嗜好データの収集には力を入れてきました。サイトではコーヒーに関する多様なコンテンツも提供していて、その閲覧状況も嗜好性を理解するデータとして活用しています。その取得に際しては、加藤さんが言うように私たちのサービスを利用いただけばいただくほど、顧客に良い情報・体験を提供できるコミュニケーションになるような設計を心がけてきました。
加藤:チーターデジタルでは日本を含む6カ国、4921名を対象にブランドへのロイヤルティの持ち方などについて調査を実施。消費者がブランドのオファーをどのように評価するかを聞いた設問では、多くの企業がロイヤルティプログラムに使用しているディスカウントやポイントが上位に入りましたが、限定的な特典やコンテンツへのアクセスなど、経済的利便性以外のオファーにも価値を感じていることがわかりました【図表1】。
企業は経済的利便性だけでなく、情緒的な価値の提案も組み合わせ、顧客の状況に合わせた多様なオファーを考えていく必要があると思います。「My COFFEE STYLE」にはそれが実現できる環境がありますね。
染谷:私は前職からロイヤルティプログラムに関わってきましたが、日本では経済的メリットが中心で、プログラムに"型"のようなものができている気がします。顧客に満足していただけるオファーが、ポイントやクーポンだけなのか、という疑問を抱いています。
加藤:先ほど紹介した意識調査では、ブランドのロイヤル顧客になる理由についても聞いています。調査の結果、日本の消費者はブランドのロイヤル顧客になる理由として「ポイントやリワードプログラムを利用しているから」(8%)より、「優れた製品・サービスであるから」(47%)の方が高いというデータが出ています。
染谷:顧客がエンゲージメントを深めてくれるきっかけは、経済的メリットだけなのか、改めて考える必要がありますね。
加藤:UCCさんは直営店だけでなく、小売店を経由して販売するBtoBtoCの事業体もお持ちです。染谷さんが取り組む、D2Cの事業はグループ全体にどのような影響を与えるとお考えですか。
染谷:「My COFFEE STYLE」は私たちの事業全体の顧客規模から考えると、スケールという面では注力する意味を見出すのは難しい面があります。では、なぜこの事業を立ち上げたのか、それはここで取得できた嗜好性データをマスマーケティングの戦略にフィードバックさせていけると考えているからです。
加藤:なぜロイヤル化したのか、その道筋を把握できれば、新規顧客獲得のためのマーケティング戦略にも生かすことができますから。染谷さんのお取り組みには、顧客規模も大きい大手メーカーにおける、これからのマーケティング戦略の大きなヒントがありますね。
対談を終えて
嗜好品であるコーヒーは人によって大きく好みが変わる商材。そして、その嗜好データは非常にパーソナルなものであり、0 Partyデータと言えます。UCCさんでは、この0 Partyデータを「My COFFEE STYLE」という魅力的なサービス体験によって、顧客も楽しみながら提供してもらえる環境を整えていました。
顧客規模の大きいマスプロダクツメーカー、特にBtoBtoCが中心の事業体であるUCCさんのような企業においては、現在も従来型のマス広告を中心としたマーケティング活動が主流になっていました。しかし、人の嗜好性は、ますます多様化しています。「My COFFEE STYLE」というD2Cサービスによって得られるデータは、UCCさん全体のマーケティング活動を変えていく。そんな可能性を感じた対談でした(加藤希尊)。
チーターデジタルとは?
1998年に米国で創業し現在、日本を含む世界13カ国、26拠点で事業を展開。2017年にExactTarget、Salesforceのエグゼクティブバイスプレジデントを歴任したサミール・カジ氏がグローバルCEOに就任し、新生チーターデジタルを結成。次世代の顧客エンゲージメントソリューション「Customer Engagement Suite」を開発し、すでにケロッグ、シティバンク、レッドブル、コカ・コーラなどで導入実績がある。
「Customer Engagement Suite」は成熟化する市場環境に適応した、新しい思想を持つソリューションで、見込顧客の獲得からロイヤル化まですべての機能を内包する。日本においては2019年12月から新たな経営陣が参画し、2020年からソリューションの提供を開始した。
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記事内で紹介した「消費者のデータプライバシーやブランドロイヤルティに関する意識調査レポート」(計57ページ)がダウンロードできます。