インターネット時代の消費者購買行動研究をもとに、慶應義塾大学商学部の清水聰教授が提唱した「循環型マーケティング」。口コミの影響力が重視される現在の環境において、企業はこのモデルをどうマーケティング実務に生かすことができるのだろうか。
マス広告以外も起点に多様化する購入のきっかけ
成熟する市場環境下、新規開拓に重きを置いた、これまでのマーケティング活動だけでなく、既存顧客との関係性を重視する潮流が生まれている。既存顧客との関係性を強化することが売上に貢献すると同時に、企業の一方的な発信だけでは消費者の行動を喚起しづらい環境においては、顧客からの発信、つまりは口コミが新規顧客との接点づくりにも寄与するとの考えがあってのことだ。
そうした潮流の中、いま改めて注目されているのが、2013年に慶應義塾大学商学部 教授の清水聰氏が、著書『日本発のマーケティング』の中で提唱した「循環型マーケティング」の概念だ。
この概念に行き着いた背景について清水氏は「従来の消費者行動研究における意思決定モデルが対象としていたのは主に購入までのプロセス。購買後の口コミについても言及されてはいたものの、SNSやスマホが普及し、消費者の発信力が劇的に拡大した状況にまでは対応できていないという問題意識がありました」と説明する。
「循環型マーケティング」とは、「購買に至るまでの行動」「購買の場での行動」「購買後の行動」が循環していて、そのどこからでも消費者が入ってきて、購買行動が起こるようになっていることを示すモデル。
「態度変容モデルの『AIDMA(アイドマ)』が典型ですが、これまではメーカーがマス広告を介して発信した情報を消費者が受け取ることが、意思決定プロセスの起点とされていました。しかし起点となるのはマス広告だけに限らない、というのがこのモデルの根底にある考え方です」(清水氏)。
店頭で商品を知る、そして口コミを介して知るなど、従来モデルで言うところの「認知(マス広告)」プロセスだけでなく、「行動(店頭)」、共有(口コミ)のいずれの段階からも、消費者が入ってくる、購入に至る可能性がある、と清水氏は考えたのだ …