広告マーケティングの専門メディア

           

多様化する時代 広告表現のリスクと対応

送り手の想像力の問題は「不寛容社会とどう向き合うか」

山本高史氏(コトバ)

クリエーティブディレクター・コピーライターとして活躍するとともに、関西大学社会学部教授として広告クリエーティブから社会を通して見ている、コトバの山本高史氏。広告クリエーターでありながら、広告から社会を研究している山本氏が、現在の社会と広告表現について解説します。

不寛容社会が広告を「燃やす」

不寛容社会という言葉を目や耳にするようになって久しいですが、その問題点はともかく、昨今の広告炎上の要因をそこにのみ求めるのには無理があるように思います。本稿ではそのようなことをお話しします。

ここにおける不寛容とは、自分と思想信条や価値観が異なる人や事象を叩いたりする心情や行動に用いられる言葉ですが、SNSなどによって顕在化する傾向があります。誰もが発信することができ、シェアされることによって拡散した結果、ある批判が世論のような様相を持つ。広告の炎上はそのようなメカニズムを持っています。

ぼくはその手前にあるものは、一個人が受ける情報のレンジの狭さではないかと思っています。かつてマスコミュニケーションが主役だった頃は、茶の間では世代の異なる者がテレビ番組を共に観て、世の中の異なる価値観を知ることとなった。日曜日の夕方には父親の好きだった「笑点」に付き合わされたものでしたが、子どもの頃のぼくにはわかりやすい笑いだとは思えなかった。ただこんな笑いもあるのだということだけは覚えたのだと思います。

インターネットの成熟が、受け手を個人という単位にしました。そこでは自分の好きなものだけを選ぶことが可能です。自分の興味のない情報に接触する必要もない。広告などは関係あるものだけをご丁寧に選別して送ってくれますから。ぼくは日常的に大学生と接していますが、彼らの行動を見ているとよくわかります。新聞は読まず、お気に入りのYouTuberを選び、好きなテレビ番組は録画してテレビCMをスキップし、電車の中ではスマホに熱中して中吊り広告も見ない。

ごく普通の生活者もその気になればそんな生活を送ることができる。ぼくだって似たようなものです。ところがそんな情報接触のレンジの狭さが、そのレンジの外にある価値観や社会観を、ありのままに受け入れ難くなっているのではないか、確証バイアスと呼ばれるものがわかりやすく働いているのではないか、ということです。それが不寛容社会のベースにあるのでは。仮説ではありますが、そんな環境下で広告は炎上します …

あと64%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

多様化する時代 広告表現のリスクと対応 の記事一覧

業界内の「意識の差」にどう向き合うのか 広告界のダイバーシティ推進の実態に迫る
炎上のトレンドは「論争型」へ 事例データベースから見えた最新の対策とは
企業のためでも社会のためでもなく ダイバーシティを自分の心で感じてみる
送り手の想像力の問題は「不寛容社会とどう向き合うか」(この記事です)
『知らせる』だけでなく『届ける』ことが重要 社会性を考慮する必要性は案件による
批判、炎上は広告の宿命? それでも、より多くの人に響くメッセージを
情報構造の変化がもたらしたネット炎上 今、広告主はリスクにどう対処すべきか?
多様な人たちの声が届くようになった社会で どのように広告を制作していくべきなのか?
問題の背景にあるのは広告業界の体質!? 多様性に配慮することが不可欠な時代に
宣伝会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する