マーケティングの領域においても、ツールにAIが活用されることが当たり前になりつつあります。そこで、AIを活用し、ビッグデータを使いこなすために、マーケティング従事者が理解しておくべきポイントについて、東京大学の阿部誠教授が解説する。
マーケティングの分析には消費者行動の理解が重要
近年、マーケティングにおいても機械学習や人工知能が利用され始めています。まずは、分析に必要なデータを見極めるためにも、消費者行動を理解することがいかに重要かを、2つ例を使って紹介しましょう。
(例1)発売されて1カ月経過したある飲料の新製品が、この先どう売れるかを予測する状況を考えてみましょう。飲料のような新製品の場合、価格は安い上にリスクも小さいため、多くの消費者は興味本位に試し買いをします。その新製品が今後、本当に成功するか否かは、消費者がその商品に満足して継続的にリピート購買をするかどうかにかかっています。
残念ながら売上データではトライアルとリピート2種類の購買が合算されているため、データがどれだけ詳細で大規模であろうとも、必要な情報は得られません。ここで有用なデータは、2種類の購買を区別できる消費者別の購買履歴なのです。
(例2)購買履歴データを見てみると、同じブランドを買い続ける消費者が多く存在することが分かります。実はこのような消費者には2タイプいます。ひとつはこのブランドに心酔して積極的に買い続けるタイプ、もうひとつは特にコダワリがなくとも習慣や惰性から毎回、同じ製品を買うタイプです。企業にとってはもちろん前者のタイプの顧客を増やしたいでしょう。
どちらのタイプも購買履歴データでは同じようなパターンを示しますが、どのようなデータを使えば顧客のタイプを識別できるのでしょうか?本当にロイヤルな顧客は、たとえ競合ブランドが値引きをしても簡単にはスイッチしません。したがって、購買履歴と共にその時の当該と競合ブランドの価格や販促の情報(マーケティング変数)が分かれば、それに対して消費者のブランド選択がどのように反応したかを把握できます。
AIの罠 2つの弱点とは
AIは「万能」のように言われていますが、ビジネスに適用する際、2つの大きな弱点があります。まずAIは、相関関係を見つけることには長けていますが、因果関係を導くことは不得手です …