日本においても産業界全体でAIの活用が進む中、広告業界においてはどのような活用が行われているのか。広告業界を代表する企業の具体的な取り組みをレポートする。
「特化型」AIを中心に進む導入 広告会社が活用する3つの目的
企業のデジタルトランスフォーメーションの必要性が叫ばれる中、国内企業におけるAI導入も始まっている。総務省の調査によれば、国内でAIを導入する企業の割合は14.1%という結果も出ている(「通信利用動向調査(2017年)」)。では、産業界の中でも広告業界の現状はどうなっているのだろうか。『宣伝会議』編集部では、広告業界におけるAIの活用事例を合計4社に取材した。
AIは活用目的に合わせて「特化型」と「汎用型」に分けることができる。特化型のAIは、特定の作業を実行するためのもので、ひとつの機能に特化している。人工知能コンピュータソフトがプロ棋士に勝利した囲碁の事例が記憶に新しいが、直近では自動運転の技術開発にも用いられているものだ。
対して汎用型AIは、決まった作業だけではなく、人間同様に汎用的に対応できる能力を持ち合わせている。汎用型はまだ実用化がされておらず、広告業界においても、ある領域で活用する特化型が見られた。
今回の取材を通じて、「特化型」AIを導入している広告会社では大きく分けて以下の3つの活用目的が見られた。ひとつが「効率化」だ。広告会社では、仕事の工程においてさまざまな業務が発生する。データの入力や、広告の素材入稿など煩雑となる。そのためその効率化は必須と言えるだろう。
もうひとつが「精度の向上」だ。人間の手ではどうしてもミスが起きたりムラができたりしてしまう。前述のような細かい業務を、完璧にこなすことができる。
最後は「発見」だ。広告会社の特徴としては、クライアントの課題を解決するそのクリエイティビティにある。その創造領域と言える部分にも、AIが生かされていた。
以下、各社の取り組みについて紹介していく。
変数を入力することで、7日後の番組視聴率を予測
電通では、放送1週間前のテレビ番組の視聴率を予測するシステム「SHAREST(シェアレスト)」を開発した。「SHAREST」は、過去の視聴率データ、番組ジャンル、出演者情報、インターネット上のコンテンツ閲覧傾向などを教師データとするディープラーニングにより、テレビ番組の視聴率を予測できる[図1]。
今までは、専門の担当者が決められた分析手法を用いて、過去のデータから視聴率を予測していた。例えば、あるテレビ番組はM1層(20~34歳の男性)が10%、F1層(20~34歳の女性)が5%の視聴率だと、過去のデータから見込まれていたとする。だが、実際の放映日にはM1が5%、F1が15%だったという誤差が起こる場合がある。そうなると、この番組で出すべきであった商品はF1向けの商品が最適だったことになる。
このような誤差が起こらないよう、これまでは人による視聴率予測が行われてきたのだが、人が分析することで問題も起きていた。それは、予測精度を維持する上での業務負荷の問題だ。クライアント1社に対して3人ほどの予測担当の専任が付き、長い時間と長い期間、予測業務を行うことが恒常化してしまい、人材の流動性という面においても課題が生じていた …