IoTを活用した企業変革を支援するウフルは2018年9月に「IoTマーケティング研究会」を発足。企業のマーケターと共にIoTが変えるデータを使ったマーケティングの進化の可能性について議論を重ねている。
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(左)ウフル X United Business Planning Center 部長 田中 正宏氏
(右)ウフル X United 執行役員 本部長 坂本 尚也氏
企業のマーケターが集まり議論 IoTの利活用が変える未来
日本でも製造の現場を中心に活用が始まるIoT。国内のトップランナーとして、IoTによる企業のデジタルトランスフォーメーションを実現するために必要とされる、コンサルティングからマーケティングまでをワンストップで支援してきたウフルは、2018年9月に宣伝会議と共同で「IoTマーケティング研究会」を発足。
マーケティングにおいて、顧客データの利活用が必須となっている今、顧客をより深く知るためのデータ取得に際してIoTの活用が今後、進んでいくのではないかとの未来予測があっての企画である。計2回、開催された研究会には花王、LIFULL、横浜DeNAベイスターズ、ベネッセコーポレーションなど業種の異なる4社のマーケターが参加。さらに国内外のIoT利活用事例に精通するウフルの坂本尚也氏、田中正宏氏も加わり、活用の可能性について議論を重ねてきた。
企業のマーケターと議論を重ねた研究会、またその集大成であるセミナーを終えた今、坂本氏と田中氏が考えるIoTマーケティングの展望を聞く。
フィジカルとバーチャルの融合がデータの取得環境を進化させる
──研究会では、主にデータ利活用における各社の課題が多く提示されました。こうした課題に対して、IoTがどう有効に機能するとお考えですか。
坂本:いま日本では、国を挙げての「Society5.0」の実現を目指す方針が示されています。「Society5.0」の世界で語られていることを端的に示せば、それは「フィジカルとバーチャルが融合した世界」ということ。マーケティングの言葉に置き換えるとOMO(Online merges with Offline)に近い概念だと思います。
そしてフィジカルとバーチャルが融合することで、生み出されるのがデータ。これまでは取得が難しかったオフラインの場においても、顧客に関わるデータ取得が可能になっていく。そこで、「IoTマーケティング」をテーマに掲げた研究会でもデータの利活用に関する課題が多く出てきたと言えます。
──研究会を実施した2018年は、まだIoT利用の前段階、データ利活用の課題が山積しているように見えました。
坂本:産業界におけるIoTの活用で先行していたのは、「Industry4.0」と言われるような製造や建築の現場での導入です。それに比べると、研究会を始めた2018年当時はまだマーケティングの領域とIoTには多少の隔たりがあったと感じます。しかし研究会の議論を通じてマーケティングの現場でデータの利活用の重要性が広く認識されつつあることも理解できましたので、今後は注目が集まっていくと期待を持ちました。
──研究会ではウフルがIoTを活用した地域の活性化を目指す、和歌山県の南紀白浜における「IoTおもてなしサービス実証」の話も出ました。
田中:フィジカルとバーチャルが融合した「Society5.0」を日々の生活に落とし込めば、それは街全体がデジタイズした世界と言えるでしょう。南紀白浜では顔認証を取り入れた荷物配送の仕組みを用意し、さらに地元の宿泊施設、観光施設と連携することで、観光客がスムーズな旅行体験を得るための実証実験を行いました。この取り組みで目指したのは街全体を、人を中心にした設計に変えていくということ。
IoTを活用すれば街全体という規模であっても、人を基点にした体験を提供できるようになるのです。マーケティングの世界でも、カスタマーエクスペリエンスが重要視され、人の体験を中心にした企業活動への転換が求められていますが、街と同様に企業活動も、IoTの活用で人基点に進化していくことが可能だと思います。
坂本:南紀白浜での取り組みは多様な関係者が連携をして実現したことです。今後データの利活用、さらには「Society5.0」を実現していく上では、多様な組織間のデータの連携が必要となっていく。今後、企業が保有すべきデータは、オープンかつポータブルになっていくべきだと思いますし、それを支えるのがブロックチェーンの技術です。研究会には複数の企業が参加をしましたが、企業間のデータエクスチェンジの可能性も議論のテーマのひとつとなっていました。
またこのケースでわかるように、生活空間の中にIoTのセンサー機能がちりばめられていけば、膨大なセンサーを通じて得られるデータをもとに、一人ひとりにパーソナライズした提案、サービス提供が可能になっていきます。
さらにコンシェルジュ機能を果たす、AIアシスタントのようなツールが浸透すれば、人は検索するという行為をしなくなるかもしれません。従来のマーケティングでは、人のニーズが顕在化した瞬間を捉えようとしてきましたし、そこでSEMのような手段が進化してきました。しかし一人ひとりの気持ちを、センサーを介して察知することが可能になれば、こうしたマーケティング手段も変わっていくのではないでしょうか。
田中:ただ、こうした施策を考える際に気を付けなければいけないのは、ユーザーがデータを提供する代わりに得られるサービスに対して、メリットを感じるかどうかということです。南紀白浜の場合でも、空港に着いたとたん、宿泊施設まで荷物を運んでくれるサービスなど、ユーザー目線に立った利便性が担保されているから機能しています。
そして、こうしたサービスは1企業だけで実現するのは難しいもの。IoTを活用したマーケティングにおいてはデータだけでなく、サービスの設計、提供に際しても複数社によるアライアンスが必要になってくると思います。
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最新IoT活用事例「SMOOTHe TRIP:ARRIVAL」
ウフルでは街という、より広い領域を対象にIoTを活用した地域活性の取り組みにも携わる。研究会では同社が関わる最新IoT活用事例についても紹介された。
顧客を基点に組織を見直す 部門の壁を超えたデータ活用
2019年3月には計2回の研究会の集大成として、「IoT時代のデータ利活用推進セミナー」が開催された。第1部のウフルの田中正宏氏の講演では、事例を交えながらデータ利活用のポイントについて解説。「取得することのできるデータの種類や量が膨大になっているため、逆にデータ利活用に難しさを感じる方も多いのではないか。そこで、あえて入り口部分で取得するデータに制限を設ける方法もある」と田中氏。
同社では顧客の状況に応じて、必要となる情報をマーケターがわかりやすく把握できるよう、データをビジュアライズし、活用を促す支援もしているという。また今後の展望について「IoTビジネスは1社単独で行うのは難しい面が多い」と指摘し、同社がデータの利活用を推進するためにコミュニティを形成し、新しいビジネスを創出する試みを行っていることも紹介された。
第2部に登壇したトヨタ自動車コネクティッドカンパニーe-TOYOTA部 主査 担当部長の佐々木英彦氏は、トヨタ自動車におけるデジタルマーケティング戦略を推進し、リアルを含めた社内にあるデータの統合を進めている。コネクティッドカンパニーは同社の商品・サービスをIoT化して、新しいサービスや価値を生み出したり、他社との協創を推進する部隊だ。
「もともとは社内のサーバーやデータなどは部署ごとにバラバラになっており、連携も管理もできていなかった。そこで部門横断の組織を立ち上げ、カスタマージャニー全体を俯瞰で理解し、また社内で共有し、より密な社内外のデータ連携を図る体制づくりを目指している」と部門の取り組みについて紹介した。
第3部では、研究会に参加をした花王 コンシューマープロダクツ事業部門 キュレル事業部の廣澤祐氏、LIFULL LIFULL HOME'S事業本部 グループデータ戦略部 部長の野口真史氏とウフルの坂本尚也氏が登壇。研究会においては購入前、購入時点、さらに購入後までのカスタマージャニー全体図を見据えながら、そのジャーニーにおけるすべての顧客接点の中で、各社が取得できているデータ、取得できていないデータについて発表し、議論を重ねていった。
発表を通じ、業種によってカスタマージャニーも取得可能なデータも大きく異なることが明らかとなり、結果的に足りないピースを補い合う、データ連携の可能性も見えてきた。
一方でパネルディスカッションのなかでは取得できるデータの種類は豊富になっても、その会社の業態によって利用すべき項目を見極めることが必要、収集可能なものをすべて活用すべきとは限らないという見解が示された。
また3者の議論はデータ利活用推進の壁となる組織の問題についても及んだ。坂本氏は「日本では、よく縦割り組織の弊害が議論になるが、顧客を基点にカスタマージャニー全体の設計を見据えたデータ利活用を進める上では、真の意味でのCMOが機能することが必要となる。あらゆる顧客接点を束ねて、それぞれの目的、タイミングに合わせて最適な接点を選び、コミュニケーションをしていくことが求められているし、それを実現しうる組織体制の在り方について今後議論が必要となっていくのではないか」と指摘。
進化したテクノロジーを活用しうる企業の組織体制、人材育成の問題も解決すべきテーマだとの見解を示し、パネルディスカッションを締めくくった。
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2019年3月に開催された「IoT時代のデータ利活用推進セミナー」の様子。第1部は田中氏の講演(①)、第2部はトヨタ自動車の佐々木氏の講演(②)、第3部はパネルディスカッション(③)と3部構成で行われた。
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