広告・コミュニケーションに欠かせない「言葉」。しかし、私たちは人が言葉を理解するメカニズムをどれほど理解できているだろうか。言語学者の川添愛氏が、「言葉」のコミュニケーションを全6回で解説する。
先日、行った和食の店で、店員さんが他のお客さんに「本日は、メニューに書いてあるデザートの他にも、メロンと桃のコンポートがあります」と言っているのが聞こえてきました。私はそこでつい考え込んでしまいました。「メロンと桃のコンポート」というのは、メロンと桃の両方がコンポート(砂糖煮)になっている一皿のことだろうか、それとも、生のメロンだけの一皿と桃のコンポートだけの一皿という、別々のデザートのことなのだろうか、と。
このような曖昧性は、句や文の構造から出てくるものです。前回の連載でお話ししたように、私たちが発する句や文というのは、頭の中の文法にしたがって単語を組み合わせることでできあがります。その際の単語の組み合わせ方は一通りであるとは限らず、多くの場合は二通り以上の構造が可能です。
例えば「メロンと桃のコンポート」の例で言えば、「メロンと桃」が「コンポート」と組み合わされた[[メロンと桃]のコンポート]、もしくは「メロン」が「桃のコンポート」と組み合わされた[[メロン]と[桃のコンポート]]という構造が考えられます。この二通りの構造が、異なる二つの解釈を生み出しているわけです(ちなみに、前述のお店のデザートは「生のメロン」と「桃のコンポート」でした) …
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