企業活動においても、持続可能な社会の実現への貢献が求められる昨今。その現場で、広告業界のクリエイティビティが生かせる可能性はあるのだろうか。数々の企業のコンサルティングを手掛け、現在はファーストリテイリング・サステナビリティ委員会社外委員も務める、元電通 特命顧問の白土謙二氏に話を聞いた。
業界の"素人化" チャレンジが求められている
まずは本題に入る前に、広告業界について考えてみたいと思います。近年の広告業界は「負けない広告」を目指してきたように思います。競合ブランドに「負けない」。それは、失敗しない手堅い方法を模索する姿勢とも言えます。バブルがはじけて景気は後退。さらに企業のコンプライアンスが問われるようになり、チャレンジを行うことがない環境での保守的なマーケティングだったと言えます。
こうした姿勢を表すように、宣伝部門の力は社内において相対的に落ちてきています(図表1)。1970~80年代までの宣伝部は役員直轄の部門であり、社内における発言権も強かった。しかし時代によって求められる機能も変わり、また他部署の力が強まったことで、その役割は限定的になっていきました。
また、以前は「この道20年」といった名物宣伝部長がいたものですが、他部門と同様に数年単位で異動が起きてチャレンジよりも、そつないオペレーションが重視されるようになってきています。それにより、「宣伝部のコモディティ化」とも言える状況が生まれているのではないでしょうか。そうなると、オリエンも、広告表現もコモディティ化されていきます。「業界の素人化」が起きているのです。これは構造的な問題と言えるでしょう …