数々の名コピーを生み出し、1980年代のコピーライターブームの立役者でもある仲畑貴志氏。トップランナーとして走り続ける仲畑氏に、AIの登場によるクリエイターの仕事への影響について考えを聞いた。

ナカハタ コピーライター/クリエイティブディレクター 仲畑貴志氏
1947年京都市生まれ。広告企画・制作、マーケティング戦略、新製品開発などが専門。数多くの広告キャンペーンを手がけ、カンヌ国際広告祭金賞のほか数々の広告賞を受賞。代表作は、サントリートリス「雨と仔犬」、TOTOウォシュレット「おしりだって、洗ってほしい。」など。事業構想大学院大学教授。また、宣伝会議賞審査委員長。毎日新聞紙上で「仲畑流万能川柳」の選者も務める。
──広告コピーを自動生成するAIも登場しています。AIはコピーライターの仕事に影響を与えるものだと思いますか。
インターネットが出てきても、AIが進化をしても、人そのものは変わってはいない。人を取り巻くシステムが変わっているだけ。だから僕は今の段階ではAIというものに対して、そこまで恐れを抱く必要はないんじゃないかと思っている。人は、相変わらず同じところで泣いて、同じところで笑っているわけで、感情のツボは変わっていないよね。これが、笑うところで泣き始めたら怖いけど。僕たち、コピーライターが人の心を奪う技術で生きている職人だとすれば、人が変わらなければ恐れる必要は、まったくないと思う。
電通が開発した、広告コピーを自動でつくるAIの「AICO」にこれまでの僕のコピーを全部入れたの。そうしたら、AIは僕がよく使う言葉を使った変なフレーズのコピーを出してきた。時に、その中に面白い表現もあったのだけれど、それはあくまで"誤変換"の面白さみたいなものであって、人の心を奪うところまではいっていない。
それじゃあ、もっとこなれたコピーを生み出せるようにするために、より情報をインプットすればよいのかといえば、今度は逆に標準化されて平凡なコピーしか出てこなくなるんじゃないのかな。コピーにおいては、アウトプットする時のフィルターが大事なわけで、そのフィルターに必要とされるセンスをまだAIは身につけていない。コピーをつくるより、選ぶ時のフィルターをつくる方が難しいと思う。
ただ、AIが自殺することを考え始めたら怖いよね。自殺までいかなくとも「憂鬱になるAI」とか...