私たちの生活だけでなく、生命にまで直接的に関わる「食」。内食、中食、外食、いずれの領域においても多くの事業者がしのぎを削り、日々新たなトレンドが生まれ続けている。ぐるなび エディトリアル・プロデューサーの松尾大氏に、令和時代の「食」トレンドについて聞く。
ボーダーレス化した「食」文化 揺り戻しの動きも
衣食住の中でも、特に「食」に対するお金のかけ方は、人によって全く異なるため、企業側が仕掛けて社会的なトレンドを生み出すことはなかなか難しいと思います。こうした状況になった要因としては、平成の時代に登場したインターネット、スマートフォンやSNSの影響が考えられます。
昔とは比べ物にならないほどに消費者が触れることのできるコンテンツ量が膨大になったことで、企業側が情報を届けたくても狙った方向に消費者の意識を向けることは容易ではなくなりつつあります。消費者は企業以外の多様な人の知見にも触れてしまいますから。
このように企業はトレンドを仕掛けづらくなっていますが、それでも食にはトレンドがあります。昨今、多いのは"新しい食材"の登場を起点とするトレンドです。日本では採れない食材、新たに開発された食材が持ち込まれることで、新しい料理が生まれ、ブームになることがあります。
例えば、近年のパクチーブームで言えば、岡山県で香りが抑えられたパクチーが生産できるようになったことで専門店ができ始め、ブームになったという経緯があります。
昭和の時代は新しい食材は今ほど多くなく、"カタカナ"の食べ物が少なかったと思います。ハンバーグなどの洋食はありましたが、海外の料理が当たり前のように入ってきたという意味で、平成は本当に食のボーダーがなくなった時代だったと思います。本場の食材が、スーパーマーケットやインターネットで手軽に手に入るようになったのは最近のことです。
別の観点から言えば、食材の輸入コストが低減しているという背景もあるでしょう。例えば、東京・笹塚の老舗イタリア料理店「キャンティ」では、かつて日本では入手しづらかったバジルを大葉で代用していた当時の名残のメニューが今でもあります。昭和の時代は、それほどまでに本場の食材を調達することが難しかったのです …