多様なメディアが出現してきた現代において、メディアや広告はどのように変化し、そして未来はどうなるのだろうか。発足以来、常に新しいクリエイティブを開発してきた博報堂・スダラボの須田和博氏が、21世紀の「メディア」論を語る。
IoTの時代にはあらゆるモノがメディアになる
IoTの時代を迎え、あらゆるモノがネットに接続されるようになった現在。「だからこそ、今の時代はあらゆるものがメディアになる可能性がある」と話すのは、博報堂で「スダラボ」(次世代型クリエイティブを開発する同社の社内横断プロジェクト)の代表を務める須田和博氏だ。
「IoTとメディア論の観点で言えば『そうなります』で話は終了なのですが、クリエイターにとってはそこからが大事です。すべてのモノがメディアになった時、どういうコミュニケーションをするのが良いのか。それを具体的に考えることが、次世代クリエイターの仕事です」。
ACC賞インタラクティブ部門で2年に渡り審査委員長を務めた須田氏。審査時に掲げたテーマは「ソレって広告なの?」という着眼点だった。
「僕は以前から、21世紀には21世紀なりの広告の形があるはずだと思っていました。今までの定義では広告に分類されなかった『新しい形の広告』を見つけたいと、このテーマを掲げました。そして2年目は、その問いを受けて『コレこそ広告でしょ!(21世紀のね)』という、その時点での答えを提示しました。あらゆるモノがネットに接続される時代には森羅万象、あらゆるモノとコトが広告になる。だからこそクリエイターは『嫌じゃない広告』をつくらないといけない。なぜなら自分の生きている環境のすべてがメディアになり、広告に取り囲まれて生きる時に、好きでもない広告にターゲティングされ続けたら嫌ですよね。つまり広告をつくる人たちが、皆から嫌じゃないと思われるような広告をつくれなければ、すぐに『最悪の世界』が実現してしまうのです」。
人とモノとのメンタルな関係性を紐解くのがクリエイターの役割
そう話す須田氏が「すべてのモノがメディアになるとき、モノごとに違う語り口とコミュニケーションのコツがある」と気づいたのは、ラボでの体験が大きいという。
「最新技術をどう広告コミュニケーションに使ったら皆に喜んでもらえるかを探すために、6年前から『スダラボ』でプロトタイプづくりを始めました。これを『広告の新商品づくり』と言っています。いろいろな技術を用いて広告媒体ではなかったものを体験型の広告コミュニケーションやプロモーションの媒体にしていきました」。
スダラボから生まれたプロトタイプのひとつが「ライスコード」だ。さまざまな色の稲穂で描かれた巨大な田んぼアートを、画像認証の技術でQRコードのように読み取り、お米をダイレクトに購入できるというもの。「風景」をメディアにし、「売り場」に一変させた。
また、生産者の声で野菜が話す「トーカブル・ベジタブル」もスダラボ発だ。野菜に接触検知センサーをつけることで野菜をメディアにしたという。野菜に触ると、野菜が生産者の声で、産地の自己紹介を行うという店頭販促ツールであり、かつ食品産地偽装問題を楽しく解決することを目的に開発した。
スダラボは、これまで8つのプロトタイプを開発してきたが、顔認証による広告配信システムの「フェイス・ターゲティングAD」を開発した際に、大きな気づきがあったと須田氏は話す …