2018年2月にいとうせいこうさんとの対談本『ラブという薬』を出版した精神科医の星野概念氏。星野氏が感じる現代社会の生きづらさ、さらには"アナログな場"の重要性とは。
出版を通じて気づいた伝えることの難しさ
2018年2月に作家やクリエイターとして活躍するいとうせいこうさんと精神科医の星野概念氏の対談本『ラブという薬』が出版され、話題を集めた。
星野氏は病院に所属する勤務医としてだけでなく、ミュージシャンや文筆家など、多岐にわたって活躍している。星野氏といとうせいこうさんとの対談が実現したきっかけは、いとうさんのバンド「ロロロ(クチロロ)」で、星野氏がサポートギタリストをしていたことにあるという。
「いとうせいこうさんとは、バンドメンバーといっても全然お話したことはなかったんです。クリスマスイベントの時だったでしょうか、突然『相談に行きたい』とおっしゃられて。二人ともコスプレをしていた時だったので冗談かと思っていたのですが(笑)、本当にカウンセリングにいらっしゃいましたね」。
『ラブという薬』は、いとうさんのお悩みに星野氏が答える対談形式になっている。読者からは「読んで気持ちが楽になった」「友達に勧めた」という好意的なものも多く寄せられた。
一方で「"精神科に行こう"と言うけれど、行っても良い経験をしたことがない」という声もあったという。
「本の中でも、すべての精神科をお勧めできるわけではないと書いていましたが、宣伝文句に『精神科の敷居を下げる本』と書かれたことで、伝えたい意図が十分には伝わっていなかったのだと気づきました。本を出してみて、あらためて"伝える"ことの難しさを感じましたね。短い言葉で景色や物の雰囲気を感じさせたり、想像させたりする詩人や俳人はすごい。宣伝文句も、その伝え方によっては予想外に人を傷つけてしまうこともあるのかなと思いました」。
そうした「伝わらなさ」の壁を埋めていくための方法を得る機会となったのが、2018年11月に開催された『ラブという薬』のロングセラー記念イベントだ。星野氏といとうせいこうさんが登壇したほか、書籍の構成を担当したライターのトミヤマユキコさんが進行を務めた。こうしたイベントやライブでは、段取りを決めて準備万端で臨むよりも、その場で生まれる偶発性に委ねたいという星野氏の意向に合わせ、来場者からその場で悩みを募集し、それについて2名が話すというスタイルが取られた …