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今日的な課題を読み解く ブランド戦略の論点

時系列で解説 マーケターが知っておくべき、ブランド戦略の変遷

久保田進彦氏(青山学院大学)

昨今、ブランド戦略について、その重要性が見直されている。しかし、現状を知るのみではなくその変遷を知ることで、自社が置かれている状況、取るべき施策についてのヒントを得ることができる。本稿では、マーケティング、ブランド領域を長年研究している久保田教授が変遷と課題について解説する。

    POINT

    POINT 1 ブランド戦略は時代とともに多様化した。しかしその基本は変わらない。

    POINT 2 今日では「セイリエンス」の重要性が増しつつある。

    POINT 3 ブランドと売上は相反しない。

ブランドへの眼差しは、どう変わったか?

かつてブランドは、マーケティングの教科書の片隅に、ひっそり書かれる程度のテーマでした。ところが1980年代後半にMSI(アメリカ・マーケティング・サイエンス協会)が重要研究テーマに指定すると、状況が変わります。「ブランド・エクイティ」という概念が広まり、多くの論文やビジネス書が発表されました。いまから30年前の話です。

日本でも1990年代中頃から、ブランド戦略への注目が高まります。多くの企業が、「製品」ではなく「ブランド」を前面に出したマーケティング活動を始め、テレビ広告の最後にブランドのロゴやシンボルが大きく映し出されるようになりました。

このころ話題となったブランド戦略のテーマを振り返ると、大きく3つに分けられます。①いかにして強いブランドをつくるか(ブランド構築)、②ある製品カテゴリーで成功したブランドを、どうやって他の製品カテゴリーに展開するか(ブランド拡張)、③企業や事業全体で、複数のブランドをどのように組み合わせて活用するか(ブランド・システムないしはブランド・アーキテクチャー)です。

これらはいずれもブランド戦略の基本であり、その重要性は今も変わっていません。その意味で、ブランド戦略の大枠はこの時期に確立されたといえるでしょう。

その後、2000年代に入ると、2つの新しいテーマが加わります。④消費者が抱くブランドとの心理的な結びつき(ブランド・リレーションシップ)と、⑤ブランドのファンたちがつくる社会的集団(ブランド・コミュニティ)です。どちらもブランドそのものではなく、ブランドと消費者の関係性に焦点が合わせられていることが特徴的です。

また同じころ日本独特のテーマとして、⑥地域や地産品のブランディング(地域ブランド)にも関心が集まりました。2000年代前半はブランド戦略が大きく発展した時期といえます。

ところが2000年代中頃に入ると、ブランド・マネジメントはやや下火となります。最大の理由はデジタルの台頭です。ITやeビジネスといった言葉が流行るにつれて、素早く、機動的なビジネス展開が重要視されるようになりました。

また、ドッグイヤーやタイムベース競争といったコンセプトが叫ばれるなかで、ビジネスにおける関係の主流も、すり合わせ型(インテグラル)から、組み合わせ型(モジュライズ)へと変化したように見えました。じっくりブランド育てることは、いつしか、時代遅れと考えられるようになったのです。

しかし現代マーケティングの実践において、ブランドを無視することはできませんでした。興味深いことに、デジタル化が進むほど、ブランドのサイトやアカウントも増え続けたのです。こうした流れのなかで、数年前から、ふたたびブランド戦略への関心が高まってきました。ブランド戦略は再評価されつつあります。

ただし今日のブランド戦略は、1990年代のそれと同じではありません。これからのブランド戦略において、特に重要性を増すと考えられるのが「セイリエンス」です。以下では日本ではまだなじみの薄いこの概念について、わかりやすく説明しましょう。

図表1 ブランド戦略の変遷と課題
(筆者作成)

マーケターが知るべきセイリエンスの大切さ

セイリエンス(salience)を英和辞典で調べると、目立つこと、際立つことなどと書いてありますが、専門用語としては顕現性(けんげんせい)と訳すことが多いようです。ブランド・マネジメントでは、そのブランドについて頻繁に思い出したり考えたりすることを意味します(Keller 2013)。つまり、そのブランドのことを、さまざまな場面でよく思い出したり、意識したり、気に留めたりすることです。セイリエンスを高めるということは、消費者の心の中で、ブランドの存在感を高めることだといっても良いでしょう。

セイリエンスはブランド認知と似ていますが、単に「知っている」だけでなく、いつも気にかけられる、意識されることを意味する点で、少し違っています。つねに「リマインド」してもらい、ブランドが心の中で埋もれないようにする、といったニュアンスがあります …

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