週に1回の茶道の稽古を通じて気づいた、今に大切な何かを問う著書『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』。著者の森下典子さんが語る、多忙な現代人だからこそ持つべき心のあり方や、文章・コピーなど、言葉の持つ魅力とは。
就活の失敗から執筆の道へ 心の中の気づきを文章化する
茶道を通じての気づき、日々の喜びを綴った『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』。黒木 華さん・樹木希林さんをキャストに2018年に映画化し、話題を集めた同書の著者がエッセイストの森下典子さんだ。
『日日是好日』以外にも、身近な食べものの思い出について書いた『いとしいたべもの』『こいしいたべもの』(共に文春文庫)、猫との出会いを綴った『猫といっしょにいるだけで』(新潮文庫)など、エッセイを中心に著作を重ねている。
そもそも「書く」道を選択したきっかけは、就職活動の失敗にあると話す。
「元々は出版社への就職を志していたのですが、就活に失敗して進路に悩んでいたところ、当時近所に住んでいた『週刊朝日』の元編集長の方が『巷のこぼれ話を集めるページがあるから、そこで書いてみない?』と声をかけてくださったのです。それが人気コラム『デキゴトロジー』でした。そこで取材して、記事を書き始めたのがきっかけでした」。
全くの素人だった森下さんが取材の仕方から文章のいろはを習い、取材・執筆に精力を注いで約10年。「デキゴトロジーは、読み人知らずのように署名なしでしたが、人間観察の場として面白く、修業時代のことは忘れられません」と、森下さんは当時を振り返る。
今も教訓にしているのが、「格好よく書こうとしないこと」「うそは書かないこと」の2点だ。
「デキゴトロジーの初代の編集者は、これまで読んだことのないほど知的で面白い文章を書く方でした。その才能の一部でも盗めないかと、端から食べるようにその人の書いた記事を読んだことを覚えています。難しいことを分かりやすく表現する天才で、今でも私の先生です」。
修行時代を経てエッセイストとして活躍してきた森下さんだが、今でも締め切りが迫って来ると、緊張してしまうと明かす。
「どうせ一生を賭けるなら、自分の感じたものを人に伝える仕事がしたいと思って、この仕事を続けてきましたが、改めて『自分は何を書くのが向いているのだろう』と考えると、現代社会の激しい移り変わりを追いかけるよりも、時代が移り変わっても変わらない、心の中の気づきのようなテーマが向いている気がします」 …