未来をつくるデジタルマーケター52人(1)
日々進化を続けるデジタルテクノロジーを事業に取り入れながら、新しい顧客体験の創出やブランド価値の向上に挑戦するマーケターの皆さん。デジタルテクノロジーの活用で実現しうることや、2019年に注目していることを聞きました。(社名50音順・敬称略)
ファッションブランド「earth music&ecology」をはじめ、飲食やホテルなど幅広いブランドを持ち、事業展開を行うストライプインターナショナル。代表取締役社長 兼 CEOの石川康晴氏に、デジタル時代の戦略やマーケターに期待する役割を聞いた。
ストライプインターナショナル 代表取締役社長 兼CEO 石川康晴氏
1970年岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。94年、23歳で創業。95年クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1,300億円を超える。公益財団法人 石川文化振興財団の理事長や、現代アートの国際展覧会「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる。
オンラインとオフライン両方を攻めなくてはならない時代。僕たちがまず目指すべきは、お客さまとの関係性をいかに深めることができるか。重視すべきKPIは「エンゲージメントスコア」だと考えています。
今後、消費者から選ばれるリテールは売るだけではなく、感動や体験を提供できるリテールでなければなりません。感動や体験を提供できる場として、リアルの店舗の役割は大きいはず。それにも関わらず、“ECで獲得したユーザーをどう店舗につなげていくか”という戦略が、現在どの企業においても不足していると感じています。いわゆるリテールで獲得した顧客をECにつなげている場合がほとんどではないでしょうか。
世界の潮流を見ると、プラットフォーマーが、自分たちのプラットフォーム内のサービス提供に留まっているのは、日本だけです。オンライン上のプラットフォーム内で提供できるサービスだけでは、ユーザーの満足度さらにはエンゲージメントが高まらないことに米国や中国は気づき始めています。オフラインの体験も重視することで、相乗効果が生まれ、結果として売上が高まっているという事例も出ています。
当社はリアル店舗からビジネスをスタートしているので、世界の潮流とは逆に、現在オンライン上のプラットフォーム構築を強化しているところです。
リアル店舗の領域で言うと、お客さまの体験価値を高めるアプローチ方法は、アパレルにおいてはディスプレイや商品・陳列などの工夫に限られていました。しかし、これからの店舗はブランドの理念やメッセージ、アーカイブなどお客さまが知り得ないブランドのさまざまな物語を伝えることが求められている。ブランドに対する深い理解やコミュニケーションが、エンゲージメントスコアにつながっていくと考えています。
リアルとデジタルを融合させ、オンライン・オフライン関係なくお客さまとのエンゲージメントを高める新しいリテールのあり方「ニューリテール」。当社ではさまざまなテクノロジーやデータを活用してその実現を目指しています。
新しいエクスペリエンスの場所をつくる概念としてのリテールはグローバルでも前例がないため、エンゲージメントやロイヤルカスタマーを高める在り方はどのようなものが最適か、実験を重ねています。ひとつの取り組みとして、ファッションブランド「koé(コエ)」のホテル併設型グローバル旗艦店「hotel koé tokyo」を渋谷に出店しました。1階はベーカリーレストラン、2階はアパレルショップ、3階はホテルという今までにない店舗です。1階では毎週末DJイベントも開催。来店頻度が増えることによってブランドとお客さまのエンゲージメントを高めています。
海外の取り組みも始まっています。2018年5月、当社はアリババとの協業を発表しました。当社のレディース向けカジュアルファッションブランド「earth music&ecology」の中国の旗艦店舗では、お客さまのさまざまな行動データを店内で取得しています。ECサイトの閲覧状況や購入商品のデータと紐づけることで、店内における最適なマーケティングや接客を実現しようとする試みです …