クロス・マーケティングと宣伝会議が運営するインサイトスコープProject委員会は、大阪と東京で「シェアリングエコノミー」に焦点を当てたセミナーを開催した。同委員会は最新のマーケティング戦略の発展性や実践手法を考える場を共有する情報発信プロジェクト。今回は、CtoC市場を牽引する先進企業による議論が交わされた。
CtoCの信頼感を高める評価制度がビジネスの鍵
シェアリングエコノミーは、個人が所有する遊休資産やリソースを有効活用することで新しい価値を生むサービス。モノや空間だけでなく、スキル・時間・お金など幅広い領域でシェアを拡大させ、昨年の国内市場規模で2660億円(ユーザー取引総額、野村総合研究所調べ)、2023年には約9400億円規模の産業になると予測されている。
大阪・東京の2会場で開催された本セミナーは、「ミレニアルから団塊Jr世代までの心を捉えるシェアリングエコノミー」と題し、シェアリングサービスに携わる企業が3部構成で講演を行った。
第1部のシェアリングエコノミー協会の佐別当隆志事務局長は、「シェアリングエコノミーの特徴は、CtoCの個人間による社会参画です。ソーシャルメディアが普及を後押しし、マッチングのプラットフォームにアクセスすればいつ誰でも参加できて、自動決済も可能。サービス提供者と受給者は、総合レビュー制度により信頼を構築できるのが拡大の要因になった」と話した。
例えば、子育て中の主婦がクラウドソーシングで1カ月に数万円稼げることや、営業時間外のレストランや駐車場の空きスペースを利用する「軒先レストラン&パーキング」は大きな社会価値も生んでいる。行政の所有する城や廃校のシェアや地方でのローカル体験を個人に提供する「TABICA(たびか)」なども需要を伸ばしているという。政府も積極的に乗り出し、補助金制度をスタートしたとしている。
第2部では、クロス・マーケティンググループ ビジネスプロデューサーの堀好伸氏が登壇し、シェアサービスを頻繁に利用する生活者の声を紹介。「シェア文化は昔から日本にあったが、スマホの後押しでシェアが古くて新しい発想に変化している」など、生活者は今、所有することの満足から利用への満足へと進化していると総括した。
そして第3部は、シェアリングサービスを新規事業に取り入れる先進企業として、ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクターの津田佳明氏、ブラザー工業 新規事業推進部 事業開発グループ スーパーバイザーの若山勝氏に加え、大阪会場ではストリートアカデミー 代表取締役CEOの藤本崇氏が登壇し、積極的なパネルディスカッションを展開させた。
津田氏は「ANAは創業当初、ヘリコプター2機からスタートしたベンチャー企業。初心のチャレンジ精神に立ち返るために『デジタル・デザイン・ラボ(DD-lab)』という別舞台をつくり、制限のない空間で移動できる未来のコンピューター新技術(アバター)の提案や、宇宙旅行をめざす構想などを進めている。また『ドローンでの撮影付き!慶良間諸島シュノーケリングツアー』などムービージェニックな旅も開発し、ユーザーの好評は上々だ」と紹介した。
若山氏は、「フォトグラファーと撮影してほしいユーザーをつなげる写真撮影マッチングサービス『Fourtrive(フォートライブ)』のアプリを、一部の地域でテストマーケティングしている。プロに写真を撮ってもらうことは非日常体験の創出」と事業化のねらいなどを話した。
日本最大級スキルシェアのコミュニティ「ストアカ」を立ちあげたCEO藤本氏は、「気軽な学びは新しい自分に出会えるチャンス」といい、登録ユーザー20万人、講師の数は約1万5千人、2万講座以上のプラットフォームを運営する「ストアカ」は教えたい人と学びたい人をリアルにつなぐCtoCの学びのマーケットと定義づけ、ユーザーとのエンゲージメント強化をはかる事業者側の取り組みなどを解説した。
大阪会場では「地域創生やパークマネジメントにつなげたい」(若山)、「食べログのようなユーザーに一番近いポジションの確立を」(藤本)、「都心と地方など多拠点で生活する新モデルを発信していきたい」(津田)など、シェアリングサービスへの期待感をのぞかせた。
東京会場では第2部で登壇の堀氏、津田氏と若山氏の2名に、エアークローゼット 代表取締役社長兼CEOの天沼聰氏を加えた4名でパネルディカッションを行った。
天沼氏は、月額制オンラインファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」を運営する立場から、シェアリングエコノミーについて言及した。
「シェアリングエコノミーの基本的な概念として合理性が含まれると思うが、ミレニアル世代はこの合理性という価値に共感する人たち」と天沼氏。一方で「特に、シェアリングサービスだからということではないが、UXにこだわりを持っており、合理性だけではない体験価値の提供に力を入れている」とも指摘した。
この発言に対して、堀氏は「エアークローゼットは、単なる合理性だけではない体験価値を提供している点が支持を得ていると思う。シェアリングサービスの開発に際して、UXは外すことができない重要な要素」と話した。
また東京会場でのパネルディスカッションでは津田氏、若山氏からシェアリングエコノミーが経済活動のあらゆる場面に浸透しているとの考えが示された。具体的には両氏が関わっている、対消費者向けのサービス開発に留まらず、メーカーで言えば物流や製造など、企業内の限られたリソースを効率的に活用するため、自前主義にとらわれないアライアンスが広がっているとの指摘があった。
2回のセミナーを通じ、シェアリングエコノミーは、ミレニアル世代が牽引して広まった概念ではあるが、いまや産業構造自体を変えるようなムーブメントになりつつある様子が見えてきた。
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