経営そしてマーケティングにおけるデータ活用の重要性が叫ばれるようになって以来、専門人材の採用、育成に力を入れる企業が増えています。しかしスキルを持った人材がいれば企業のデータ活用は進むのでしょうか。データ活用ができない組織には共通点があると指摘する、統計家の西内啓氏が、陥りやすい落とし穴をもとに実践的なデータ活用論を解説します。
なぜ日本企業にはデータ分析人材がいないのか?
本連載の第1回、第2回ではそれぞれ、分析以外のデータ活用の側面、すなわち「意思決定」あるいは「分析結果をどう施策に生かすか」という点について詳しく解説していきました。多くの企業はデータ自体、あるいは分析人材や分析をするためのITツールなどに対して大規模な投資を行っていても、「そこからどういうアクションにつなげるか」という出口の思考がないケースが多く見受けられます。
データ活用がうまく進まない理由として、データ解析のプロがいないことを挙げる方は多いですが、実は「意思決定」と「行動」の部分がボトルネックになっているケースが多いのです。
しかし、こうした状況をそのまま放置していては、いつまで経ってもデータが価値を生みだすようにはなりません。そこで前回、解説したような考え方がそのような不毛な状態から脱するための良いヒントになるはずなのです。
しかしながら、それでもやはり「データ分析ができる人材」が足りていない、という企業も少なくないでしょう。せっかく高価なツールを導入しても、大きな権限を持ったデータ分析組織が社内に発足しても、そして前回、学んだようなアクションを取りたくて、うずうずしている事業責任者がいたとしても、肝心のデータ分析をする人材が足りていない、という状況では話になりません。私自身、こうした状況についても多くの日本企業から相談されるわけですが、なぜこのようなことになるのでしょうか。
独学で学ぶしかない?日本のデータサイエンス教育
そもそもの問題として、日本の大学の中でデータサイエンスの専門教育が始まったのは比較的、最近の話です。この2、3年で滋賀大学や横浜市立大学といった大学の中でデータサイエンス学部が設立されました[図表1]が、それまでは日本において、「データサイエンスを一元的に教える」ことはなされていませんでした。様々な学部の中にそれぞれいる「統計学や機械学習を専門とする先生」の指導を受けた学生たちや、半ば独学のように自分でスキルを身につけたものが、それぞれのキャリアを歩み、「データサイエンティスト」として仕事をしているのが日本の現状です。
しかしながら、ただ「データサイエンスを専門的に学んだ若者が不足している」という以上に根深い、「人事制度」という課題を多くの日本企業は抱えています。基本的に多くの日本企業の給与体系は年齢と職位でかなり制限されています …