
(左)1928 (右)2018
「牛乳石鹼、よいせっけん♫」20代半ば以降の人なら、きっと耳に残っているだろうこのメロディー。なつかしのCMソングでおなじみの、牛乳石鹼共進社の「カウブランド 赤箱」は、今年で発売から90周年を迎えた。
今でこそ油脂化学製品といえばシャンプーからボディソープ、洗濯洗剤に至るまで枚挙にいとまがないが、赤箱発売の1928年は石けんかロウソクぐらいしか製造されていなかった時代。
「当時、石けんの製造法といえば、大きな釜の中に牛脂やヤシ油といったものを入れ、水酸化ナトリウムとケン化反応をさせる"釜だき製法"しかありませんでした」そう語るのは、同社マーケティング部の春名洋至氏。
原料の仕込みから出来上がりまで1週間という、大変な手間がかかる釜だき製法。ところが「中和法」という製造法が開発されたことで、その時間はわずか2~3時間ほどに劇的に短縮されることになる。
生産効率を求めてほとんどの企業が新方式の採用に踏み切る中、同社だけは頑ななまでに釜だき製法にこだわり続けた。
「すべては品質を優先した結果です。釜だき製法だと、肌に良い成分が石けんの中に残る。また、化粧品にも使われるグリセリンの生成により、肌あたりの良い泡ができます。
その特徴を端的にいえば、やわらかく、泡立ちが良くて、クリーミィ。釜だき製法ならではのこうした良さを残したい。それが今もこの製法にこだわり続ける理由です」と春名氏は言う。
こうして同社は石けん製造開始から今に至る109年間、同製法を守りつづけている。そしてこの不変の姿勢こそが、「カウブランド」ならではのオリジナリティとなった。
固形石けんの代名詞的存在にまで成長を遂げた「赤箱」だが、その人気の秘密は決して製造法だけではない。
「物資が不足していた戦後の一時期、石けんに粘土を混ぜることが横行したといいます。そんな中、当社では戦火で焼け残った香料を惜しげもなく使い、いい香りがする上質な石けんを提供していました。そのため、配給時には大変な人気となり、多くの人が集まってきたと聞いています」(春名氏)。
いつの時代にあっても良いものを誠実につくりつづける姿勢。それが今も同社が根強いファンを抱える理由といえるだろう …