異常気象となる割合が年々増えている日本。予測の難しい気象情報に、私たちはどのようにして立ち向かえば良いでしょうか。ウェザーマーチャンダイジングの観点から、対策を考えます。
流通業界における対応のポイントとは
異常気象とは一般に、過去データに基づく平均的な状況から大きく外れた現象のことを指します。気象庁ではその程度として、「原則としてある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年に1回以下で発生する現象」と定義しています。本来的には異常気象は滅多に起こらない現象という印象があるかと思いますが、近年、異常気象という言葉をマスコミ報道などで聞くことが多く、頻繁に発生していると感じている方が多いのではないでしょうか。
確かに、一定期間で平均的にならしてしまうとそれほどの異常ではないものの、短期的にみると通常の変動幅の範囲を大きく逸脱したレベルの現象が増えています。例えば1時間で降水量が80mm以上(「猛烈な雨」と表現されます)の年間発生回数は有意に増えています(図表1)。
年間平均降水量に目立った長期トレンドは見られないものの、猛烈な雨の発生回数が増えているということは、雨の日数自体は減少しているが、1回あたりの降水量が増えていることを示唆するものです。このように短期的に、通常の範囲を逸脱して起こる現象のことを最近、気象の業界の中では「極端気象」と表現しています。
本稿では、筆者がこれまで20年以上にわたって流通小売、卸、食品メーカーなどにウェザーマーチャンダイジングを指導してきた内容に基づき、異常気象や極端気象、またある時期をきっかけにその前後で天候の傾向(天気・気温など)が大きく変化する場合などに直面したときの流通業界における対応のポイントを解説します。
<POINT1> 異常気象の発生可能性を予測する
当然のことながら異常気象の予測は非常に難しいものです。ただし異常気象の発生につながりやすい前兆現象を捉えることはできます。大きく分けて以下の2つが大きなポイントです。
エルニーニョ現象、ラニーニャ現象の発生状況
気象庁では毎月10日ころ、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象に関する定期レポートを発表しています。その中で現在の発生状況と向こう半年程度の傾向予測がまとめられています。それを定期的にチェックすることがまず重要です。特にエルニーニョ現象は、全世界的に異常気象を誘引しやすい現象として知られ、世界の学者たちの間でかなり研究が進んでいます。このレポートの中で、現在あるいは今後エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の発生が示唆されていれば、しかもその発生規模が大きければ大きいほど、異常気象の頻発に関するシグナルです。
日本列島付近を通過する台風
2つ目は意外な盲点でありながら結構重要なポイントである台風です。台風は上空の大気(偏西風など)の流れの細かい蛇行などによって発生する低気圧や高気圧とは異なったメカニズムで発生します。一度台風が日本付近に接近すると上空の大気の流れを大きくかき乱すため、天気や気温の傾向が前後でガラリと大きく変わることがあります。しかもその状況は、週間予報や1カ月予報、3カ月予報などの発表にあたって、多くの場合、考慮されていないため、全く予測されていなかった状況が起こるきっかけとなることがあります。
例えば記憶に新しい2017年8月の、北日本〜東日本での天候不順。これは同年7月下旬から8月上旬にかけて日本の南をウロウロした長寿台風5号とタイミングが一致しており、何らか関係したと考えられます。台風以外にもあるタイミングで前後の天気、気温状況が急変することはありますが、台風の場合は事前に事後の状況を予測することが特に難しいため、日本列島付近を台風が接近通過する場合は注意が必要です。
<POINT2> 天気や気温と物の売れ行きに関する基本法則を理解する
言うまでもなく、ほとんどの物の売れ行きと天気や気温の状況は密接に関係しています。
ウェザーマーチャンダイジングとは、その関係性を熟知し、流通業のさまざまな業種のあらゆる業務において気象情報を活用することで企業としてのロスの極小化と売上の最大化を目指す手法です。まずは物の売れ行きと気象条件に関する基本法則を整理することにします。
そもそも、気象条件の変化をどのように感じ、人のニーズや嗜好がどのように対応するのでしょうか。人間の生理学も含めて考えます。代表的な感情は、「暑い」と「寒い」ですが、人間はなぜ、どのような意味があって「暑い」「寒い」と感じるのでしょうか …