数あるデータの中で、まだあまり民間企業での活用が進んでいない気象データ。マーケティングにどのように活用でき、そのポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。日本気象協会の吉開朋弘氏に活用ポイントを聞きました。
ウェザーマーチャンダイジングを現代版にアップデート
気象情報を利用して販売促進計画を行うことは一般に「ウェザーマーチャンダイジング」と呼ばれています。ウェザーマーチャンダイジングは約20年ほど前から行われていますが、その頃は気象予測の精度が不十分であったことや、POSデータなどのデータ整備が進んでいなかったことなどから、担当者の経験と勘を超えることができず、未だ十分に普及していません。
しかし近年のICT技術の発展により、気象予測の精度は年々向上し、POSデータの整備も進み、ビッグデータを扱う分析環境も整備されてきました。SNSの普及により消費者の嗜好が多様化・複雑化する中で、今後はより一層データに基づくマーケティングの重要性が高まっていくと考えています。
そこで私たちは、従来の「ウェザーマーチャンダイジング」を現代版にうまくアップデートすることができれば、気象データを経済に活用することができるのではないか、と考えています。ここでは、私たちが考える「マーケティング活動における気象データの活用ポイントと今後の可能性」について解説します。
<POINT1> 天気の変化はあらゆる人の消費行動に影響を及ぼす
「暑くなるとアイスやかき氷が食べたくなり、寒くなると温かいお鍋が食べたくなる」という感覚は誰しも経験したことがあると思います。これらの感覚は、暑くなって体の水分が無くなると体が水分を欲し、寒くなると体を温めるために温かいものが食べたくなるという生理的欲求に基づく反応です。
気象の変化は人間の生理的な欲求に直接働きかけるため、あらゆる人の消費行動に影響を及ぼします。そのため気象の影響は個人差が少ないことがポイントで、うまく活用することで幅広い層へアプローチができると考えています。
<POINT2> 近年の気象は大きく変化しており、「季節外れ」が増えてきた
近年はこれまでに経験したことのない気象現象が増えてきています。2017年の8月、関東では40年ぶりに21日連続の雨となり、季節外れの寒さが続いて夏商材の売上が打撃を受けました。この冬は厳しい寒さとなりましたが、3月には最高気温が20度を超える季節外れの暑さとなり、桜の開花が全国的に早まりました。
このように近年の気象は大きく変化しており、「季節外れ」の暑さ寒さが頻発するようになってきました。その影響で、これまでカレンダー通りに判断してきた「例年この時期に売れ出す」というタイミングが少しズレてきたという印象をお持ちの方も多いと思います。
<POINT3> 天気は物理的に予測ができる
気象予測の特徴は、物理的に予測が可能だということです。天気予報は計算機の発展とともに日々進歩してきており、長期予測の予測精度はここ15年間で約30%向上していると言われています。この先の気温の傾向は、月別であれば約3カ月、日別であれば約2週間先まで分かるようになってきており、この先の天気を事前に把握することができるようになってきています。そのため天気予報を使うことで「季節外れ」の気温の変化を事前に把握できるようになります。
民間企業における気象データ まだ進まない活用の現状
このように気象データが活躍するための環境背景や技術基盤は整ってきている一方で、気象データの活用は防災利用やインフラ保守などがメインとなっており、民間企業における気象データの活用は進んでいません(図表1)。
マーケティングを行うにあたり、顧客データなどは活用されていますが、位置情報や気象データを活用したマーケティングは普及していないのが現状です。これらのデータは今後のIoT時代には欠かせないデータであるため、将来的な活用シーンが広がると考えています。
気象データの活用が進んでいないのは、「そもそも気象データにどのようなデータがあるのか分からない」「どこから入手したら良いか分からない」などの原因があると考えています …