今年、設立から30周年を迎えたジェイアール東日本企画。設立当初から変わり、総合広告会社としての仕事が増えていたことから、2017年に関西、中部にも拠点を設けた。さらに関西支社が今年5月、新たに京都営業所も開設した。関西における業務拡大の狙いを聞く。
関西進出から約1年 業務拡大で京都にも営業所
ジェイアール東日本企画(以上、jeki)は、2017年5月に関西エリア及び中部エリアでの営業拠点として、同エリアにそれぞれ支社を開設した。さらに2018年5月には、関西支社の業務拡大に合わせて新たに京都営業所が設置された。
関西に進出してから約1年で、さらなる業務拡大に踏み切ることができた背景について、jeki 執行役員 関西支社長の稲葉耕一氏は「関西に来て、東京にはない新しい広告会社の社会、そして地域へ貢献するビジネスの形が見えてきたから」と説明する。実際、関西支社では進出早々、今年4月1日から民営化された、大阪市営地下鉄(現・Osaka Metro)のブランディングプロジェクトを受注するなど、関西エリアでの存在感を急速に増している。
稲葉氏は「JR東日本の戦略子会社第1号である当社は、地域社会の発展に貢献するというDNAが根付いている。Osaka Metroの仕事を通じて、改めて地域社会と共に発展を目指す、jekiならではの地域展開の方向性が見えた」と続ける。
世界的イベントを控える関西 インフラ整備にも期待
そもそもjekiが東日本エリア外の2つの拠点への進出、支社設立を決めた目的は、首都圏に次ぐ規模のマーケットに拠点を置くことで、クライアントの要望に、よりスピーディかつきめ細かく対応できるようにすること。もう1点が、各エリアで新しい営業機会を獲得することにあった。しかし稲葉氏は「従来の広告業界におけるクライアントビジネスだけを考えれば、決して関西、特に京都はマーケットとしては大きいとは言えない」と自身の考えを述べる。
それでは、なぜ関西で業務を拡大するのか。その理由のひとつが、インバウンド需要による盛り上がりを肌で感じたことだ。さらに2019年には「G20サミット」、「ラグビーワールドカップ」、2021年には「ワールドマスターズゲームズ」、文化庁の京都移転など、国内外の注目を集める大型イベントが控えている。
「ここ数10年で、関西エリアのインフラに対して、世界から投資が集まり、空港や鉄道などの整備が進むことが予測されます。またこうしたインフラ整備が、外国人観光客のさらなる集客につながり、ますますの活性化が期待されるでしょう。jekiとしてもインバウンドプロモーションの拠点として、新しいビジネスをつくっていけると考えています」と稲葉氏は意気込みを語る。
京都から世界に飛び立つ グローバルニッチという市場
加えて今回、京都に営業所を設置するのは、関西エリアの中でも京都には特筆した可能性があるとの判断があったからだ。「京都には世界に通用する独自性を持った企業や伝統工芸が数多く存在し、"グローバルニッチ"とも言える市場がすでにつくられていたことは大きな発見だった。jekiのソーシャルビジネスの知見を掛け合わせることで、京都の企業や技術、商品の国外に向けたプロモーションに協力したい」(稲葉氏)。
グローバルニッチという新たな市場の発見、そのきっかけになったのは自身も京和傘の職人でありながら、日本の伝統工芸や中小企業の海外向け商品開発や販路開拓を支援しているTCI研究所 代表取締役である西堀耕太郎氏との出会いだ。西堀氏が運営する京都の海外事業は、伝統工芸品の技術を活かしながら、海外パートナー、バイヤーと連携した商品開発・販路拡大でグローバルニッチ・トップを目指す「ネクスト・マーケットイン」と呼ぶ独自メソッドに特徴がある。
「京都の伝統工芸品は世界の中でも特に富裕層から高い支持を得ていることがわかりました。決して対象者はマスにはならないものの、一部のターゲットの支持を得ることができれば、東京を介さず、いきなり世界のマーケットを目指すことができる。西堀氏のプロジェクトを通じて、グローバルニッチ市場の可能性を強く感じました」(稲葉氏)。
西堀氏とjekiが互いの強みを掛け合わせ、知恵が集まる場(プラットフォーム)をつくることで、グローバルニッチの市場においても、新たなビジネスチャンスを拡げていく。今、稲葉氏らはそんな構想を描いている。
実際にjekiとの協業について、西堀氏は「当社もjekiさんも業態として全く異なる会社であるからこそ、それぞれ得意・不得意があります。ネットワークやリサーチ力、マンパワーなどは、伝統産業や中小企業にとっては難しい部分もありますので、WinーWinの関係を目指し、ディスカッションを行いながら、うまく組むことで、よりよい事業ができるのではないかと思っています」と話す。
京都でのノウハウを全国へ 成功モデルを水平展開
そして、jekiはこのグローバルニッチ市場において、新たな広告会社のビジネスモデルを確立させようとしている。JR東日本の子会社であり、地域活性やソーシャルビジネスに積極的に取り組んできたjekiならではの知見が生かされる領域であるとの判断があってのことだ。
「これまでグローバリゼーションという言葉に対して、グローバルブランドのローカライゼーションというイメージを持っていたが、ローカルの技術や商品が、そのままグローバルに飛び出て勝負するという意味でのグローバリゼーションが存在するのだという気付きがあった。特に京都の人たちの目は東京ではなく、世界に向いていることに日々大きな刺激を受けています」(河田氏)。
また、京都以外にも日本には世界では、まだ知られていない魅力的な伝統工芸品が数多く存在する。京都で培った事業モデルが、そのまま日本の他のエリアにも水平展開できるのではないか、稲葉氏らはそんな可能性も見据えている。
さらに「関西支社での新たな挑戦が、jekiのOSをアップデートするきっかけになればよいと考えています。OSがアップデートされれば、そこに乗る"アプリ"の種類や内容も変わってくるはず。OSのアップデートへの貢献を通じて、jekiという広告会社にしかできない、新しい商品・サービスをつくっていきたいと考えています」と語る稲葉氏。関西支社の取り組みは、広告会社の新しい事業モデルをつくる挑戦とも言えそうだ。
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