デジタルマーケティング分野の総合イベント「宣伝会議インターネット・マーケティングフォーラム」が6月5〜6日、ANAインターコンチネンタルホテル東京で開催されました。12回目を迎えた今年のテーマは、「Industry Innovation 〜新しいルールをつくる人たち〜」。
いま、デジタル技術を駆使した新たな価値提供や顧客体験の創造は、業界を超えた共通の課題です。本フォーラムでは顧客体験を軸に、商品やコミュニケーション、組織、さらに産業全体にイノベーションを起こす先進企業が、その取り組みを紹介しました。本号では、基調講演を中心に主なセミナーをレポートします。
ブランド価値をつくるのは記憶に残る、心揺さぶる体験
宣伝・マーケティング担当にアンケートを取ると、重要視する施策の上位に入る「ブランド力の向上」。ブランドの確立と強化は、マーケティング部門に課せられた大きな役割だ。アウディ、スターバックスというグローバルブランドの、日本市場でのマーケティングに携わる井上大輔氏、長見明氏に、これからのブランディングに求められるアプローチを聞いた。
──そもそも「ブランドはつくれるものなのか」という、根源的な問いが今日のテーマです。
長見:スターバックスは小売業なので、やはりお店、看板の名前が第一です。メーカーと比べて広告宣伝費は一桁少ないんです。スターバックスのブランドは広告戦略でつくるというより、店でつくられている。イメージとしてつくるものというより、ビジネスそのもので表現していくものだと考えています。
井上:ブランドの定義にはいろいろありますが、ブランディングにはP/L(損益計算書)的なブランディングと、B/S(貸借対照表)的なブランディングがあるというのが私の考えです。売上やシェア目標を達成するにはこれだけの認知が必要だという文脈でのブランディングがP/L的ブランディング。一方でブランドの認知は人の心に10年、20年と残ることもあり、それは資産になる。そうした資産を築くのがB/S的ブランディングだと定義しています。
長見:面白い考え方ですね。よく、青春時代に好きになったブランドは何年経っても嫌いにならないと言いますよね。いつまでも記憶に残っているのは、初恋の相手と同じで、心が揺さぶられたから。つまり「体験」があったからではないでしょうか。価値が記憶に残るようにするには体験が大切。では、体験が広告起因で起こるかというとそれは疑問です。
一方で、青春時代に好きだったブランドを今も買っているかというと、ほとんど買っていない。広告は体験をつくることはできないけれど、商品を買ってもらうきっかけにはなる。商品を買ってもらわないことにはビジネスは成り立ちません。
井上:同感です。基本的にブランドというものは意図的につくることはできない。その理由がまさに体験。例えば、自分がオーナーでなくても前を走るアウディが道を譲ってくれた。とてもマナーのいい運転をしていた。これらもアウディのブランド体験になる。無数にあるタッチポイントで無数の体験が起こるわけで、広告はそのごく一部でしかありません。タッチポイントが非常に多く、体験の機会が多いゆえにコントロールできなくなっていると思います …