
(左)1928 (右)2018
「キリンレモン キリンレモン…」のCMソングでお馴染みの「キリンレモン」。1928年の誕生以来、幅広い層から愛され、2018年3月に90周年を迎えたロングセラー商品だ。「当時、当社は初の清涼飲料水開発を目指し、技術者の本城杢三氏をスカウト。競合他社には決して情報を漏らすまいと、本城氏は部屋に鍵をかけ、たったひとりで『キリンレモン』のレシピを調合したと伝えられています」。そう語るのはマーケティング部で同商品の商品担当を務める二宮倫子氏だ。
「当時は、あんぱんがひとつ5銭、炭酸飲料として浸透していたラムネが1本2銭という相場のなか、『キリンレモン』は1本25銭と、高級品だったと聞いています」。
その品質は、高価格帯にふさわしく、創業以来「品質本位」にこだわってきたキリンの考えを色濃く体現する。例えば、台湾産の白ザラメやイタリア産のクエン酸など、世界中から集めた原料で、人工甘味料不使用を実現。色付きのサイダーが主流だった当時には珍しく、「着色料不使用」が貫かれた。容器も、透明な液色の魅力を生かすため、特別に取り寄せた砂で「無色透明な瓶」をつくり出した。当時は、瓶の多くが色付きだったというから、画期的だ。
しかし、品質本位のこだわりを大切に誕生した「キリンレモン」も、近年はその魅力を消費者にきちんと伝えきれていない課題があったと、二宮氏は続ける。
「約10年前から、家族をターゲットにしたコミュニケーションを実施したり、高校生と共同開発したパッケージを使用してきたことで、POPなイメージが定着。お菓子のような飲料水として捉えられていました。無色透明な品質はずっと変わっていないにも関わらず、です」。売上も、広告投資を行っていなかったこともあり、緩やかに右肩下がりを辿っていた。
実際、2017年4月時点では「キリンレモン」にはプロモーション予算がついていなかったという。しかし、8~9割もの認知度を誇る「キリンレモン」にポテンシャルを見出し、戦略ブランドとしてプロモーション投資を集中させていた「キリン メッツ」とは明確にすみ分けられると結論に至ると、リニューアルに向けて走り出した。
リニューアルに際しては、ターゲット層を20~30代に設定。風味も、はちみつなどのしっかりと甘みのある味わいから、レモン果実のピールのような大人も楽しめる味わいに刷新した。「90周年を迎え、100周年が視野に入ってきました。決して簡単ではありませんが、これからも時代にマッチし、一層愛される商品へ育てていきたい」と語った。
視点01 商品開発
時代の価値観を捉えた「原点回帰」
着色料を使わず、無色透明の瓶にこだわり誕生した「キリンレモン」。今回のリニューアルでは、「品質本位」のこだわりはそのままに、その本質的な価値を現代に合うようアップデートして表現。原点回帰、現代化という相反するコンセプトの共存を目指した。「品質に対する意識が高まっている今の時代だからこそ、本質を大切にしたものづくりを訴求すれば、もっと支持を得られるはず、と考えました」 …