CSVの提唱者であるハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター氏の直接の指導を受け、現在は日本企業の強みに着眼した、CSVの新たな解釈を示す一橋大学大学院の名和高司氏。日本を代表する企業には、「世の中をよくする」という理念のもと100年以上前から、すでに現代につながるCSV経営の実践のヒントがあると指摘する。
日本企業の戦略の中心にある「世の中を良くしたい」という志
マイケル・ポーター教授らが2011年に提唱したCSV(Creating Shared Value)の概念は「経済価値」と「社会価値」の両立を掲げています。そして「しっかりと利益を生むことがCSVの目的」とも定義されており、社会課題の解決は、利益を得るための手段という見解が示されています。
一方で私が考える日本版CSV(J-CSV)では、利益を生むことは当然不可欠ではあるものの、あくまで手段であり、戦略の中心にあるのは「世の中を良くしたい」という志であると定義しています。
パナソニック、味の素、本田技研工業など歴史に名を残す名創業者が設立した、日本を代表する企業は、その多くが社会の発展に貢献することを理念に掲げています。そして、その志を社員が継承し、難解な状況に立ち向かった時には、そこに立ち返ることで、自分たちが社会に対してどんな価値を提供すべき存在なのかを理解し、事業を継続させてきました。
創業当時から表現は変わっているもののパナソニックの「A Better Life,A Better World」、味の素の「Eat Well,Live Well.」などのブランドスローガンには、「世の中を良くしたい」という創業者から継承されてきた志が今も宿っています。
図表1は私が提唱する日本版CSVのキーワードをまとめたものです。前述のパナソニックや味の素の理念には、ここで挙げたようなキーワードが内包されていることがご理解いただけると思います。
例えば、味の素の「Eat Well,Live Well.」というスローガンには肉体的に健康な状態である「ヘルス」だけでなく人々の身体、さらに心も健康な「ウェルネス」まで実現しようとする企業姿勢が見て取れます …