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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

冷静な状況把握と判断が明暗を分ける炎上リスクの実態と予防・対処法

山口 真一 氏

今月のテーマ:クリエイティブにおけるリスクマネジメントの基本

パーソナライズされたアプローチが求められ、広告制作物の数そのものが増える傾向にある昨今、広告としての効果・魅力を損なわないよう配慮しながら、スピーディに法務チェックを進めていく必要があります。企業の宣伝・マーケティング担当者自身が、必要最低限、身につけておくべき法務知識を解説します。

    「炎上予防・対処」のここがポイント!

  • 炎上参加者は0.5%しかいないが、ネットメディアやマスメディアに取り上げられた際の拡散力は無視できない。
  • 広告をはじめ、表現において炎上を回避するキーワードは、「多様性への配慮」。
  • 過剰な表現の萎縮は、企業の競争力だけでなく、消費者の幸福度も低下させ、社会全体にとってマイナスになる。

インターネットの普及は、さまざまな恩恵を人々にもたらしました。その恩恵の大きなもののひとつに、「非対面・対多数コミュニケーション」が可能になったことが挙げられます。FacebookやTwitterなどのいわゆるソーシャルメディアを通して、誰でも情報を世界に発信可能になりました。まさに、一億総発信時代が到来したと言えるでしょう。

このような人々のネット上での発信は、消費行動とマーケティングを劇的に変えました。消費者は、口コミサイトやSNSで他人の投稿を見てから購入の意思決定をすることが当たり前になりました。企業側も、できるだけ口コミで広がることを狙ったバイラルマーケティングを重視するようになり、ネットで拡散されやすい広告・キャンペーンを多く打つようになりました。

実際、以前行った実証分析の結果、ネット上の口コミがもたらす消費押し上げ効果は、年間1兆円以上にのぼることがわかりました。また、NTTコムリサーチの調査によると、ソーシャルメディア活用企業の6割は売上増を実感しているようです。

しかしながら、このような一億総発信時代の到来に伴い、企業は「ネット炎上」という新たなリスクに直面することとなりました。炎上とは、ある人や企業の行為・発言・書き込みに対して、インターネット上で多数の批判や誹謗中傷が行われることを指します。

従来の批判集中と異なる点として、拡散力が高いこと、批判が可視化されること、批判を書き込むハードルが低いことなどが挙げられます。このような炎上は、年間1000件以上発生していると言われており、今日もどこかで誰かが炎上しているのが現実と言えます。

広告は炎上しやすい

特に最近多いのが、広告やキャンペーンが炎上する事例です。例えば、SMAP会見パロディCM事件では、ジャンバリ.TVが流したCMが大炎上し、CMを差し替える事態となりました。このCMは、人気アイドルユニットSMAPメンバーの解散報道に対する謝罪会見のパロディとなっていました。話題性を狙って尖ったCMを流したものですが、ファンを中心に批判的なコメントが殺到し、大炎上となりました。

また、ルミネCM炎上事件では、ルミネがYouTube上で公開した動画について、上司役の男性が主人公の女性に対し容姿を馬鹿にした挙句、可愛い女性社員と比較して「大丈夫だよ、需要が違うんだから」と吐き捨てる内容が、セクハラ男を無批判で登場させているとして炎上しました。多数のメディアで報じられて大規模な炎上となり、動画は削除、ルミネは謝罪文を掲載するに至りました。

同じようにジェンダー関係で炎上したものとして、東急電鉄マナー広告炎上事件があります。この事件では、女性が綺麗に座って両隣の男性が脚を広げているような構図に、「ヒールが似合う人がいた。美しく座る人だった。」というキャッチコピーをつけて、周囲に迷惑をかけない座り方を呼びかけているポスターが炎上しました。問題なさそうな内容ですが、「女性に対してお節介で抑圧的」「女性蔑視的」という批判が集中しました。

炎上は、企業という強者の不正行為や無配慮な表現に対し、消費者という弱者の声が通りやすくなったという良い影響があります。しかし、過剰な攻撃による人格否定、個人情報の流布や、企業イメージの低下、株価の下落といった、さまざまな社会的影響をもたらしています。また、よりマクロ的な視点では、炎上を恐れるあまり、過剰に表現を萎縮してしまうという効果もあります。

では、このような力を持つ炎上とは、誰が起こしているのでしょうか。約2万人を対象とした我々の調査分析の結果は、驚くべき炎上の実態を示しました。過去1年間で炎上に書き込んだことのある、「現役の炎上参加者」は、わずか0.5%(200人に1人)しかいないことがわかりました。これを炎上1件あたりに換算すると、0.0014%程度(7万人に1人)と試算されます。

さらに、約4万人に対して行った追加調査では、炎上に過剰に書き込む「炎上ヘビーユーザ」の存在が明らかになっています。例えば、炎上1件あたりに書き込んだ回数について、1~3回の人が約70%だったのに対し、51回以上の人が3%いました。0.5%の中の3%なので、6700人に1人程度といえます。

一方で、炎上を認知していない人は全体の8%と、10人に1人以下であり、炎上の認知度は高く、その社会的影響の大きさがわかります。

炎上のメカニズム

以上を踏まえて炎上のメカニズムを描くと、図1の①→⑤のように推移していきます。最初は批判的な拡散がソーシャルメディア上で小規模に起こるだけですが、やがてヘビーユーザが書き込み、情報がどんどん広がり……最終的には、ネットメディアやマスメディアで大量に拡散されます。

図1 炎上のメカニズム

実は、炎上とはソーシャルメディア上の現象ではありますが、④以降のネットメディアやマスメディアで取り上げられない限り、企業の株価下落などの深刻な影響は出ないことがわかっています。

実際、炎上の認知経路について、テレビのバラエティ番組が58.8%であるのに対し、Twitterは23.2%に留まるということが、吉野ヒロ子氏(帝京大講師)の調査でわかっています。そして、ネットメディアやまとめサイトが、より大きな影響力を持つマスメディアへのパスとなっています。

マスメディアが炎上拡散で果たしている役割はそれだけではありません …

あと58%

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