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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

押さえておきたい、広告コンテンツにまつわる法務知識の基本

岡本 健太郎 氏

今月のテーマ:クリエイティブにおけるリスクマネジメントの基本

パーソナライズされたアプローチが求められ、広告制作物の数そのものが増える傾向にある昨今、広告としての効果・魅力を損なわないよう配慮しながら、スピーディに法務チェックを進めていく必要があります。企業の宣伝・マーケティング担当者自身が、必要最低限、身につけておくべき法務知識を解説します。

    「著作権法」のここがポイント!

  • 広告などに第三者の著作物を利用するには、原則として、著作権者の許諾が必要。
  • どういった場合に著作権などの侵害となり、権利者の許諾を得たほうがよいかを判断するには、経験も必要。
  • 権利処理の必要性を判断する思考プロセスは、著作権法以外(商標権など)にも応用できる。

広告宣伝やマーケティングには、写真、動画、音楽、イラスト、キャッチコピーなどのさまざまなコンテンツが利用されます。

100%オリジナルの場合もあれば、第三者のコンテンツを一部利用していたり、第三者のコンテンツとどこか似ていたりといった場合もあるのではないでしょうか。適切にコンテンツを利用していくためには、関連する法務知識を身につけておくことが重要です。そのメリットとして、例えば以下が挙げられます。

(1)トラブルの未然回避

広告などに第三者のコンテンツを無許諾で利用した場合には、権利者から差止請求を受けて以降の利用が制限されたり、損害賠償請求を受けたりといったリスクがあります。理論的には、刑事罰の可能性もあります。せっかく費用をかけて広告をつくったとしても、必要な権利処理を怠ることにより、その広告を利用できず、損害賠償を要求されるといった事態にもなり得るのです。

法務知識を身につけておくことにより、(a)予め権利者の許諾を得ておく、(b)権利者の許諾が必要なコンテンツは利用しないといったトラブルの未然回避が可能となり得ます。

(2)業務の円滑化

上記(1)とも関連しますが、第三者のコンテンツを利用する前に、友好的に交渉を進めていれば、無償または良い条件で許諾を得られる場合もあるでしょう。ただ、無断で利用したことにより、権利者の気分を害してしまい、事後承諾を得るための交渉が難航するといった事態も考えられます。

このように、必要な権利処理などを怠り、事後的に対応するとなれば、手間や費用が嵩むことにもなるのです。権利処理が必要な場面や、その際に必要な権利処理を理解しておけば、計画的に対応できますし、その場で慌てて対応するといった事態も回避できそうです。

(3)コンテンツの保護

2015年には、色彩、音、動きなどを新たに商標登録できるようになりました。こうした法改正の概要を把握しておけば、広告に利用する音、動きなどを商標登録して独占利用を図っていくことも可能となり得ます。

また、ご自身のコンテンツについて、第三者による無断利用を防止したり、模倣品対策を図ったりといった場面もあるでしょう。少し手をかけておくことによって、取り得る選択肢が増えることもあります。ご自身のコンテンツについて権利保護を図っていく際にも、法務知識は有力なツールとなり得ます。

これだけは知っておきたい! コンテンツに関する法務知識

コンテンツに関する主な法律

広告宣伝やマーケティングに利用される主なコンテンツとして、写真、動画、音楽、イラスト、キャッチコピー、ロゴマークなどが挙げられますが、例えば、次のような権利や法律が関係してきます。

「著作権」:言語、音楽、舞踊、美術、建築、映画、写真などの著作物についての権利です。著作物を制作したクリエイターまたは制作会社は、権利者(=著作権者)となり、著作物の利用をコントロールできるのです。クライアントに著作権が譲渡される場合もあるでしょう。また、著作権法上、著作物の創作者だけでなく、実演家(例:俳優、歌手、演奏家、ダンサー)、レコード製作者といった著作物の伝達者にも一定の権利が認められており、これが著作隣接権です。

「商標権」:自己の商品やサービスに使用するマークについての権利です。企業のロゴマーク、商品名などが商標の典型例ですが、商標権と認められるには、特許庁への登録が必要です。商標登録がない場合でも、第三者の商標やデザインに類似したものを無断で使用すれば、不正競争防止法に基づく差止や損害賠償の対象になり得ます。

「肖像権」:自身の容姿などの撮影や利用をコントロールする権利です。「パブリシティ権」も類似の権利で、人物の経済的側面である顧客吸引力に着目した権利です。肖像権は、理論上、人物一般に認められますが、パブリシティ権は、芸能人、タレント、スポーツ選手などの著名人に認められます。

今回は、これらのうち、コンテンツに関する主要な権利である著作権について、ざっくり概略を補足します。

著作権法の考え方

広告などに第三者の著作物を利用するには、原則として、著作権者の許諾が必要です。その思考プロセスは、に示したフローチャートのとおりです。順を追って見てみましょう。

図 著作権法を考える思考プロセス

【1】保護される著作物か

著作権法は、著作物を保護しています。逆に言えば、「著作物」に該当しなければ保護の対象にはならず、利用に際して著作権者の許諾は不要です。著作物となるには、(1)表現であること、(2)創作的であることの2つの要素が特に重要です。

「表現」に該当しない例として、まず、(a)事実があります。実験結果、株価、気温、歴史的事実などの取得には費用や時間がかかりますが、多くの場合、これらは事実であって、著作物ではありません。「スカイツリーの高さは634メートル」といった記載も事実であって、著作物ではありません。

また、(b)単なるアイデアも著作物ではありません。著作物となるには、表現として具現化される必要があるのです。例えば、「父は白い犬、兄は黒人男性という一家4人の物語CM」がありました。このCMの映像は著作物でしょうが、コンセプト自体は著作物ではありません。

また、「生年月日:1928年11月18日、出身地:ニューヨーク、身長:約96.5cm、体重:約10.4kg、種類:白ハツカネズミ」といったキャラクター設定(これはWikipediaに記載のミッキーマウスのプロフィールです)はアイデアに過ぎず、漫画、アニメーションなどの形で表現されて初めて著作物となります。このほか、(c)スポーツやゲームのルールも、著作物ではないとされています …

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