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「記憶に残す」から「体感を増幅する」へ

「体験」が創る、デジタル時代のブランディング

博報堂コンサルティング 博報堂マーケティングシステムコンサルティング局長 山之口 援氏

急速なデジタルシフトで人々の生活が一変した昨今、企業が展開するべきブランディングとは。ブランドが持つ機能や従来のブランド戦略を紐解き、新しい時代に取り入れるべき「体験」を起点にしたブランディングについて博報堂コンサルティングの山之口 援氏が解説します。

デジタル化の進化がブランディングに変化をもたらす

デジタル化の進展とともに、「体験(エクスペリエンス)」というキーワードが注目されています。Webサイトやスマートフォンアプリなどの「UI(ユーザーインターフェイス)」、顧客とのインタラクションを設計する「UX(ユーザー・エクスペリエンス)」に加え、すべての事業活動を通じて顧客体験を高めていく「CX(カスタマー・エクスペリエンス)」の考え方も浸透してきています。

UI/UX/CX活動は、これまでのブランディングがデジタル時代に適応した正常進化という見方もあります。その一方でユニークなUX/CXを有する新興企業が、その魅力でユーザーを獲得した後、次の成長ステージへと飛躍するために、改めてブランディングに注目するといった例も増えてきています。

これまでのブランディングと現在起こりつつある新しいブランディングには、何か違いがあるのでしょうか。本稿では、従来型事業におけるデジタル化対応としてのUX/CX活動と、ネット企業のブランディングの動きを補助線として、デジタル時代におけるブランディングのあり方を考えてみたいと思います。

ブランドを体感する新たな接点としてのデジタル

企業におけるブランディングは、製品間のカニバリゼーションを回避することを目的に始まったと言われています。特に欧米企業においてはプロダクトブランドの買収も多く、各ブランドの棲み分けを行う手段として、近代ブランドマネジメントの手法は磨かれていきました。

その後、流通企業のプライベートブランド(PB)に対する、製造業者の自社製品(NB)付加価値向上や、多様な製品群を特定のブランドに集約し広告費の投資対効果を高める取り組みとして、ブランディングは広く浸透していきます。

またブランディングは製品マーケティングに限らず、企業の存在理由にも影響を及ぼすことから企業広報や企業文化醸成の手法としても活用されています。

このようにブランディングには様々な効用がありますが、その基本的な考え方は、顧客・従業員・株主・取引先・社会などステークホルダーが持つ「連想」を、持続的競争優位の源泉として活用することです。ここで言う「連想」とは、広告や製品、利用経験、評判を通じて蓄積される企業名や商品名への特定のイメージを意味します。

例えば、マーケティング(対顧客)の観点で言えば、多くの生活者が豊富なイメージを持つブランドは、市場シェアを拡大し、競合商品よりも高価格での販売が可能となります。さらに良好なブランドイメージは、顧客のブランドスイッチ意向を弱め、反復購買を促します。まさに「製品は工場でつくられ、ブランドはお客さまによってつくられる」という格言の通りです。

ネーミング、パッケージデザイン、広告など販促活動やサービス活動を設計し、さまざまな部門で行なわれる活動の一貫性を図ることで、ブランドのイメージは維持・強化されます。この考え方に従えば、UX/CXはデジタル顧客接点でのブランディング活動であり、これまでの延長線上にあると考えられます。

圧倒的なブランド力は常にイノベーションから生まれる

次に、ベンチャー企業におけるブランディングを考えてみましょう。さまざまな調査機関がブランド力のランキングを発表していますが、コカ・コーラやトヨタのように長年にわたり上位に君臨してきた企業に加え、近年ではグーグルやアマゾンなどのインターネット企業が上位に名を連ねるようになっています。この順位は、生活者の体感にも近いものではないでしょうか。

ここで注目すべきは、新興企業でも歴史ある企業でも、ブランド力のランキング上位に入る企業は“イノベーション”によって、それぞれのブランドイメージがつくられてきたという事実です。「宅急便(宅配便のサービス)」や「ググる(ネットで検索する)」のように、新たな製品やサービスが発明されると、最も代表的な製品やサービスの名称が、カテゴリーの名称のごとく使われることがあります。あたかも製品やサービスまた企業の名称である固有名詞が、一般名詞として流通する状況です。

歴史の長いブランドも、古くはカテゴリーそのものの創造者であり、市場の黎明期にナンバーワンの地位を確立しているケースが多くみられます。現在のベンチャー企業についても同様です。いつの時代も新たなサービスを開発し、競争を勝ち抜いてきた企業がブランドを確立してきたのです。

しかし、ひとたびの成功でブランドが永続できるわけではありません。次なるイノベーション、製品サービスの磨き込みなど、生活者が享受する価値を高め続けることが求められます。

そしてそれを継続する力こそがブランディングであり、顧客の期待、取引先からの信頼、社会での責任、従業員の関与から生まれるブランドへのポジティブなイメージは、ステークホルダーの心理的資産として蓄積されていきます。ここまでブランドが築き上げられれば、そのイメージはよほどの事件等を起こさない限り色褪せることはありません …

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