花王のスキンケアブランド「キュレル」を10年間担当し、現在はブランドを横断してデジタルマーケティングを推進する吉田智保氏。同社の提唱する「スモールマス」の考え方や、スモールマスを取り入れたマーケティング戦略について聞きました。
画一的なマーケティングから個を考えたマーケティングへ
花王では近年、「スモールマス」という概念を提唱していますが、「スモールマス」とは、「マス市場が縮小し、スモールマスと呼ぶ一定の規模を持つ市場が数多く生まれている」現代の状況そのものを示しています。ですからマーケティングも、画一的なマーケティングを行うのではなく、生活者それぞれのニーズや悩み、希望に沿った情報や商品を、一旦セグメント(=スモール化)した上で、より的確に発信していくことが必要であると考えています。
私自身は10年間、当社のスキンケアブランド「キュレル」の担当をし、現在はデジタルマーケティング部で、約20ブランドほどのデジタル戦略の設計・推進を支援しています。デジタルマーケティングはスモールマス市場と非常に相性が良いため、しっかり活用したいと考えていますが、活用にあたっては注視している点が2点あります。
ひとつは、"生活者行動の変化"です。マス・マーケティングでは比較的、良い機能を持った商品が提唱する、ひとつの顔・価値といったものに、生活者の方が自分を当てはめていたと思います。しかし、今ではスマートフォンやソーシャルメディアの普及により、簡単に情報を得たり、誰もが発信者となることができるようになりました。
自分のスタイルに合ったものを自ら選び取り、さらに自分の情報として発信することができる時代。つまり「このブランドは自分と親和性が高いから当てはめて使う」時代から、「自分はこうだから、このブランドを使う」という変化が起きているのです。
この環境の中では企業側の伝えたい画一的な情報だけを発信する一方的な努力は、生活者にすぐ見破られてしまいます。逆に、「自分にとってすごく良い」と生活者ご自身が自発的に思ったら、発信をしてもらえます。本当にその商品を良いと思ってもらうためには、本当に必要な人に向けていかないといけない。
ですから一旦、ターゲットをしっかり絞る(=スモール化する)必要がありますが、本当に良いと考える層がある程度獲得できたときには、その方々がしっかりと商品の魅力を発信してくださる発信者となり、ボリューム化(マス化)していく施策の検討につなげることができますので、スモールマスの考え方はデジタルやSNSとの相性が良く活用できると考えます。
もうひとつは、"ブランドや市場の成熟化"です。ある一定のレベルを超えて市場が成熟すると、どの商品もある程度の質は担保され、機能も充実していきます。こうした市場の中では、画一的な機能訴求ではなく、より「この商品はあなた向きです」と発信していくことが重要になります …