広告マーケティングの専門メディア

           

ブランド拡張のメリット、デメリット

常に求められる新商品、店頭に「ブランド拡張」があふれる理由

早稲田大学 社会科学総合学術院 教授 野口智雄氏

なぜブランド拡張によって生まれた商品が、増えているのか。また、ブランド拡張はどのように分類でき、成功のポイントはどこにあるのか。早稲田大学 社会科学総合学術院 教授の野口智雄氏に解説してもらった。

縮小傾向にある日本市場 失敗できない環境

ブランド拡張によって誕生した商品が市場に溢れている背景には、日本市場が縮小傾向にあることが挙げられます。人口が減少し、市場全体のパイが縮小する中では単に新しい商品を発売するだけでは、売上を確保しづらくなっています。また同時に、少子高齢化も進み、活力ある若者が減っています。

厳しい市場環境下にあるため、ブランド拡張の主体たるメーカーは、失敗を恐れて売上が安定的に見込める商品を投入したいと考えています。新規ブランドの立ち上げの場合、認知拡大に向けた広告投資や小売・流通業に対するトレードプロモーションのために大規模な投資が必要です。それが失敗したときの影響を考えると、すでに成功しているブランドにあやかってブランドを拡張するという判断は、非常に合理的と言えます。

とりわけメーカーは、消費者がよりリーズナブルな商品を求めるようになったため、価格競争に晒されています。ブランド戦略は非価格競争のための手段であり、他社との競争を避けることができます。そしてブランド化に成功すれば、擬似独占市場を形成し、価格決定権を小売・流通側からメーカー側に取り戻すことも可能です。ブランド拡張の背景には、商品ラインアップを広げることで、ブランドを強化したいという狙いもあります。

小売・流通企業もブランド拡張を望んでいる

小売・流通業から見ても、ブランド拡張された商品を店頭に並べることは理にかなっています。メーカー同様に失敗を恐れて、知名度のない商品に棚を割いた結果、売れないという事態を避けたいと考えているのです。すでに実績のあるブランドであれば、テレビCMなど多額の宣伝費が掛けられているため、安心して取り扱いできます。

そして、流通の最大の機能は「ソーティング(商品の分類および取り揃え)」です。つまり、数多くのメーカーから良い商品を仕入れて、消費者に提供することにあります。現在は、商品のライフサイクルが短縮化され、商品定着率が下がっています。流通側も消費者のニーズに対応して、棚に置く商品を変化させないと集客できないのです。そこで、小売・流通側がメーカーに新商品の開発を求めているという背景もあります。

Amazonに代表されるECサイトの急成長も、この動向を後押ししています。

特に私が注目しているのは、メルカリなどの中古商品による「CtoC市場」です。新商品が売れにくい時代が到来した結果、メーカーと小売業はますます新規ブランドを市場に投入しづらくなっています。

増加するブランド拡張 4つに分類が可能

ブランド拡張は、「ライン拡張」「価格拡張」「カテゴリー拡張」「ブランド結合」の4つに分けることができます【図1】。

図表1 主要なブランド拡張のパターン

①ライン拡張

「ライン拡張」は、5つに分けられます。ひとつ目が、飲料業界に多く見られる「新風味」です。例えば、カルピスはメロンやグレープなど、新しいフレーバーを投入しています。ユニークな試みとして、フマキラーはいい香りのする「虫よけアロマ線香」を販売しています。

2つ目は、「新サイズ」です。既存商品よりも大小サイズの商品を提供するケースです。江崎グリコ「ポッキー」は「ジャイアントポッキー」という通常よりも大きなサイズの商品を持っています。

3つ目は、「新パッケージ」です。日本コカ・コーラの「コカ・コーラ プラス」は、従来のコカ・コーラと異なり、パッケージを白地で文字を赤にすることで特定保健用食品のイメージを訴求しています。

4つ目が、「新形態」です。人気ラーメン店の「すみれ」は、セブンーイレブンとコラボレーションして、カップ麺も提供しています。

そして最後の5つ目は、「新機能」です。キリンのノンアルコールビール「キリン 零ICHI(ゼロイチ)」は、同社の看板商品の「一番搾り」の製法でつくられていると謳っています。「一番搾り」にノンアルコールという新機能を加えているのです。

②価格拡張

次に、「価格拡張」です。「上方伸長」「下方伸長」の2つに分けられます。簡単に言えば、高価格帯、もしくは低価格帯の商品を投下していくことです。

私はよくフランス語の辞書を例に説明します。収録語数や掲載内容は全く同じなのにも関わらず、皮装か紙装かで値段が倍以上も違うのです。また、古い例ですが、ボールペンとシャーペンが一体化されたゼブラ「シャーボ」も当てはまります。発売当初は3000円台でしたが、素材を金属からプラスティックに変えた廉価版も提供されるようになり、消費者を引きつけています …

あと58%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

ブランド拡張のメリット、デメリット の記事一覧

ブランド拡張を考える前に、マーケターは「らしさ」を理解すべし
急速にブランド拡張するAmazonやGoogle、ブランドはどのように対抗できるのか?
菓子から酒類に拡大! サッポロビール「男梅サワー」世界観を守りながら顧客開拓
常に求められる新商品、店頭に「ブランド拡張」があふれる理由(この記事です)
宣伝会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する