企業がデジタル対応を進める一方、消費者の「デジタル慣れ」により、せっかくの施策が思うような成果につながっていないという悩みを抱える企業も少なくありません。
そうした中、日本郵便と富士フイルム、そして大学の研究者とが産学共同で行った実証実験で、「アナログ媒体であるDMが、デジタル施策をはるかに超えるコミュニケーション効果を示す」という興味深い結果が得られました。プリントメディアを介して伝わる情報は、ユーザーにとっていかに魅力的と言えるのでしょうか。
反応率はEメールの60倍 実験で証明されたDMの威力
──産学共同研究を行うに至った経緯をお聞かせください。
一色:富士フイルムは、オンラインプリントで約200万人の会員組織を有しています。デジタルトランスフォーメーションが謳われる中、会員との主なコミュニケーション手段はEメールでしたが、「LTV(ライフタイムバリュー)の高いお客さまとのコミュニケーションに、Eメールは果たして最適と言えるのだろうか」という疑問を持っていました。と言うのも、分析してみたところ、Eメールの開封率は配信全体のわずか8%ほどだったのです。
DMという手段が効果的であることはわかっていましたが、200万人に一斉にDMを送るとなると費用がかさむ。効率化する方法はないかと、コミュニケーション手段とコンバージョン率の関係についてデータをとり始めたのがきっかけです。
意外だったのは、当社からのEメールを「受け取らない」お客さまのほうが、実は商品の購入金額や頻度が高いという事実。彼らがDMを見てランディングページ(LP)にアクセスする割合は、Eメールのそれと比較して60倍にものぼることがわかりました。
石井:研究者の立場では、施策によって「消費者が実際に購買行動を起こしたか」を知り得ないのが課題です。アンケートをとっても、わかるのは態度変容が起こったかどうかというところまで。そこで本プロジェクトに参画し、富士フイルムさんが持つデータも活用しながら研究できれば、有効な答えが導き出せるのではと考えました。
平木:国から助成を受けて研究しているテーマに「感覚マーケティング」があります。人間は、従来考えられていたよりもずっと感覚的に行動しているということを明らかにするものです …