近年、広告によって多くの話題を振りまいてきた日清食品。2017年も、著名な作品の主人公が成長した姿を描いたテレビCMや、かつて販売終了した商品を自ら“黒歴史”と呼んで再発売した企画、マンション広告の表現を取り入れたプロモーションなどがWeb上で話題を呼んだ。こうした広告はどのような狙いから生まれたのか、日清食品ホールディングスの米山慎一郎氏に聞いた。
若年をターゲットに文脈とスピード感を意識
──2017年、広告で最も話題を振りまいた企業と言っても過言ではないと思います。ここ数年、デジタル上でユニークな企画を続けている背景には何があるのでしょうか?
日清食品は2018年に創業60周年を迎えるのですが、それに先立つ2015年に「100年ブランドカンパニーへの挑戦」というスローガンを掲げました。一般的なブランドのライフサイクルを考えると、誕生から何十年も経ったブランドは、自然と鮮度を失っていきます。そこで、「100年ブランドカンパニー」の基礎づくりのために、次世代のユーザーとなる若年層への取り組みを強化したことが背景にあります。
──若年層とは、具体的にどの年齢を指すのでしょうか?
コミュニケーションのメインターゲットは、高校生から20代前半までの16~24歳に置いています。
即席麺は、家庭内在庫になることが重要です。子どもの頃に食べていたものを、親になって家庭内在庫にする。そして、その子どもが大きくなって、また家庭内在庫にして食べるというループです。小さい頃に食べた原体験がとても大切なんです。
一方で、少子高齢化が進む日本の市場では、シニア世代を獲得するための戦略も欠くことができません。
──近年の取り組みの礎には、2015年の「日清のどん兵衛」のキャンペーン「10分どん兵衛」があると思います。本来は、お湯を入れてから5分待つところを10分でもおいしく食べられたことをメーカーとして知らなかったとお詫びして話題となり、店頭で一時的に品切れを起こしたほどです。
「10分どん兵衛」から得た知見は、大きく2つあります。ひとつは、自分たちが面白いと思ったことを、世の中も面白いと思ってくれると実感できたことです。これが大きな自信になって、「10分どん兵衛」以降は、自分たちが出す企画を世の中の人たちがどのように話題化してくれるのか、そうした文脈を意識するようになりました。
もうひとつは、企画を実行に移すまでのスピードを重視するようになったことです。宣伝部の担当者は常にSNS上の動向に目を光らせ、面白そうなネタが見つかれば、圧倒的なスピードで企画としてつくり上げます。SNSが発達した今の時代、情報の鮮度が落ちるまでの時間が短くなっているので、その危うさを強く意識しているとも言えます。でも毎日、企画に追われていて「はい!終わった!次!」みたいな感じなんですよ、地獄です(笑)。
企画が商品に落ちているか広告で“売る”ことが大事
──2017年、特に印象に残っている企画は何ですか?
「日清のどん兵衛」のマンションポエム風広告と、同じく「どん兵衛」が漫画「ベルサイユのばら」とコラボレーションしたWeb企画。そして「チキンラーメン」の「裏しろたま動画」の3つですね …