2020年の東京五輪に向け、スポーツに対する社会的関心が高まりつつある。スポーツ産業以外の企業が、その価値を生かすこともできるのか。6回の連載を通してスポーツを生かす6つの視点を解説していく。
年金制度崩壊の不安と高まる健康に対する意識
日本経済は高度経済成長期から停滞期を経て、先進国の中でも最上位国から安定中位の位置付けになったが、そのような経済不況期に見える状況下でも日本の企業は、様々な新しいトレンドや流行を取り込み、新しいビジネスを創り出してきた。「健康・美容」の市場はまさにその代表格ではないだろうか。
健康は、生命や日常生活に直接関わる事柄なので、昔からその価値が軽視されることはなかった。しかし以前は健康状態と反する状態になった時に対処・適応するという意識が中心だったのではないだろうか。
現在のように、病気にならないため、健康のために何かをするという日本人の意識はいつから生まれたのだろうか。年金制度の安定的な運用、増え続ける医療費などが社会問題化し、さらに国民全体の平均年齢が上がる中で、政府の対策だけでは不安があるという認識が国民の中に生まれたことが理由のひとつではないかと思われる。
こうした意識の変化に迅速に反応・対応して、健康トレンドや文化をつくったのが日本人の上手さであると思う。日本人は元来、真面目であり、時代により変化はあるが計画的であり、何事にも一生懸命に真っ直ぐに捉える気質がある。その中で今までは健康を害した時に適宜対処して健康を取り戻し、費用も多くの公的サポートがあったが、それが急に減少する可能性や定年後の生活に対する不安が発生した。
人々の不安が増幅し、健康管理に対する意識が高まったことを捉え、日本は健康ビジネスや健康ブームを巻き起こしたのである。政府が意図的につくったのか、国民が期待して起こしたのかは不明であるが、ここ20年の健康意識・管理関連事業の成長は顕著な事実だ。
メディアもその流れを助長し(メディアが創造したのかもしれないが)、様々な手法や概念を多くのテレビ番組や雑誌や書籍にて提供し、意識を煽ってきた。その影響が顕著にマーケットに現れ、国民がこぞってメディアで取り上げられた食材を買いに走り、店頭で品切れになった状況は忘れられないものだ。日本人は真面目で素直で、非常に影響されやすい国民性なのである …