世界に広まるストリーミングサービスによって、音楽市場はどのように変化してきたのでしょうか。現在の音楽市場の概要や移り変わり、日本の音楽文化など、2016年に日本に進出したSpotifyのビジネスモデルを基に解説します。
テクノロジーの進化と音楽市場の変化
Spotifyは2006年にスウェーデンで創業し、2008年10月からストリーミングサービスの提供を開始。日本では2016年11月より本格的に始動しました。このSpotifyの中で、私はアジア全域のマーケティングや、ブランドキャンペーンも含めたクリエイティブからメディアプランニングまで担当しています。ここ数年、世界的に見て音楽市場は大きく変化をしています。
視聴方法のデジタル化が進み、ストリーミングサービスが大きく浸透し始めています。昨年は世界の音楽市場におけるデジタル(ストリーミングやダウンロードなど)からの収益が初めて50%に達しました。この50%という数字は5年前と比べると考えられないほど成熟した状況であり、大きくビジネスモデルのあり方が変わってきていると言えます。
また、IFPI(国際レコード産業連盟)によると、2016年の音楽市場(revenue of recorded music market)は前年比5.9%増の157億米ドルと、これはIFPIが調査を開始した1997年以来、最大の成長率となっています。この市場成長を牽引しているのは音楽ストリーミングサービスです。特に、Spotifyのプレミアムプランをはじめとする定額制(有料)サービスの成長は著しく、同収益(revenue)は前年比60.4%増と、音楽市場を回復基調に導きました。
ストリーミングサービスが浸透したことで、音楽市場全体が成長に転じ、アーティストも利益を得ることができているのが現状だと思います。
現在、世界で有料のストリーミングサービスを利用するユーザー数は1億1200万人と言われ、無料サービスの利用者まで含めるとさらに、その数は増えると考えられます。
この動きが特に顕著なのは、世界最大の音楽市場であるアメリカです。アメリカの音楽市場はこれまで減少傾向にありましたが、ストリーミングサービスが普及してきた2014年から成長に転じ、今年も3年連続前年比増となる見込みです。その米国市場におけるストリーミングサービスの構成比は、2016年に51%。さらに2017年上期は、全体の62%とより成長を遂げています。
一方、日本の音楽市場は、昨年は前年比99%(2985億円)と微減でした。ストリーミングサービスが占める割合は7%です。少なく感じると思いますが、2015年に各社がサービスを開始し、当社も昨秋参入したばかりという状況も背景にあります。しかし、Spotifyがサービスを開始した5年前の2011年、アメリカ市場でストリーミングサービスが占める割合は現在の日本と近い9%でした。そう考えると、日本市場でも同様に今後伸びていくことが予想されます。
ライトな音楽ユーザーへ認知を広げるための戦略
ここまで現在の音楽市場に関して説明してきましたが、Spotifyのビジネスモデルや成長推移のお話をしたいと思います。
Spotifyのビジネスモデルは、広告収益を得てユーザーが無料で利用できるプランと、広告が入らない定額制のプレミアムプランの2つから成る「フリーミアム」モデルです。その時の状況に応じて自由にプランを選択でき、いずれであっても4000万曲以上すべての楽曲を楽しむことができ、音楽業界へも還元できるモデルとなっています。1億4000万人のユーザーがいる中で、6000万人が有料ユーザーです。
強みとしては、即効性があることがまず挙げられます。リリースした曲を配信と同時に聴くことができ、タイムリーな聴取データを即日得ることができます。グラミー賞の選考やビルボードチャートなどにもストリーミングが指標として大きく反映されるようになってきており、ストリーミング数もアーティストの評価に含まれてきているというのはひとつ大きなポイントだと思います。
日本に関して言うと、2016年9月にサービスを開始した当初は国内での認知度はほとんどありませんでした。他国ではローンチ前から平均して40%程度あったことと比べると、他国とは異なる環境でスタートしたことが分かると思います。そのため、私たちはまずは音楽やテクノロジーが好きな人にファンになっていただき、彼らを起点に口コミなどで広げていくプロモーションなどを行っていました ...