長年にわたって確立されてきた広告会社のビジネスモデル。しかし、デジタル化やグローバル化を背景に、そのビジネスモデルは大きな転換を迫られています。メディアバイイングを中心とした従来型の広告ビジネスの枠に捉われず、新しいビジネス(収益源)を創出し、メディア環境・コミュニケーション環境が変わっても揺らがないビジネス基盤を構築することが、規模を問わず多くのエージェンシーにとって課題になっています。
ビジネスモデルの変革、あるいはそれを目指した新規事業の創出に積極的な海外エージェンシーの取り組みにスポットを当てながら、日本の広告会社のこれからの姿を考えます。
これまでにない事業・サービスを創出し、新たな収益の柱としている企業は、グローバルではすでにいくつも見られます。新たな事業の種はどうすれば見つかるのか。また、海外市場で通用するサービスが日本市場でも通用するのかどうかという点も含めて、取り組みの現状を聞きました。
CASE
9年周期でビジネスモデルを見直し、
新たなビジネスの種を探し続ける
R/GA
時代や環境の変化に合わせて先進的なビジネスモデルを取り入れる「次世代エージェンシー」として、世界から注目を集める、米ニューヨーク発のクリエイティブエージェンシー・R/GA。今年5月、東京に世界19番目のオフィスを開設した。1977年に映画のCGプロダクションからスタートし、1995年には「インタラクティブエージェンシー」へ、2004年には「デジタル時代のエージェンシー」へと、業態を移行してきた。
このように事業モデルを変え続けてきた背景には「9年周期でビジネスモデルの見直しを図る」という経営方針がある。
同社エグゼクティブ・ストラテジー・ディレクターの鈴木洋介氏は「来たる時代に求められるであろうものを、いち早く提供するために先回りする。その繰り返しによって、R/GAは事業領域を拡大してきた」と話す。
UX・UI、プログラミングやコーディングの専門性を持つ人材を抱え、新事業創造のベースには常にテクノロジーがあるというR/GAだが、「『テクノロジーを使って何か新しいことをやろう』と考えているわけではない」と話す。「消費者のビヘイビア(習慣)は、いつも新しいテクノロジーによって変化する。その変化に応じて、ブランドもビヘイビアを変化させる必要がある。そこで、新しいテクノロジーを活用するのが自然な流れだと考えている」(鈴木氏)。
こうして事業を創造しては自ら破壊し、また創造し…を繰り返してきたR/GAだが、2012年に6つの事業領域に再編した。
それは「VENTURES:ベンチャー投資・アクセラレーター」(株式売却益)、「CONSULTING:コンサルティング」(成果報酬)、「AGENCY:エージェンシー」(リテイナーフィー)、「INTELLECTUAL PROPERTY:知的財産」(ライセンス料)、「CONNECTED SPACES:空間デザイン」(リテイナーフィー)、「STUDIOS:プロダクション」(制作フィー)の6つだ。
編集部では6事業の中でも、特に新規性が高く、日本の広告業界にも参考になる「ベンチャー投資・アクセラレーター」、「コンサルティング」、「知的財産」、「空間デザイン」の4つに注目した。
(1)ベンチャー投資・アクセラレーター
スタートアップを成功させるための支援を行い、成果報酬型の収益モデルをとる事業。2013年より行っている。支援の内容は、(1)Financial Capital(資金のバックアップ)、(2)Creative Capital(クリエイティブ面でのサポート)、(3)Client Relationships(クライアントの紹介)。
特にR/GAの強みが発揮されるのは、(2)のCreative Capital。ビジネス戦略、マーケティング戦略、デザイン、コーディングなどの専門性を持ったR/GAのメンバーがサポートに入ることで、ベンチャー企業側に不足しているスキルを補いながら、プロダクト・サービスを開発していく ...