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世界の広告会社に見る 新事業・ビジネスモデル

次世代の広告会社像「広告代理業から事業開発パートナーへ」

小柴 亨(ジェイアール東日本企画)/大野 高(東急エージェンシー)/西村 真(読売広告社)

長年にわたって確立されてきた広告会社のビジネスモデル。しかし、デジタル化やグローバル化を背景に、そのビジネスモデルは大きな転換を迫られています。メディアバイイングを中心とした従来型の広告ビジネスの枠に捉われず、新しいビジネス(収益源)を創出し、メディア環境・コミュニケーション環境が変わっても揺らがないビジネス基盤を構築することが、規模を問わず多くのエージェンシーにとって課題になっています。

ビジネスモデルの変革、あるいはそれを目指した新規事業の創出に積極的な海外エージェンシーの取り組みにスポットを当てながら、日本の広告会社のこれからの姿を考えます。

国内の広告会社においても、従来にはなかった新たな事業・サービスをスタートさせる事例が増えてきています。ジェイアール東日本企画、東急エージェンシー、読売広告社の3社で新しい事業に従事している若手社員の皆さんに、それぞれが構想する「次世代の広告会社像」を語り合ってもらいました。

小柴氏が携わる仕事の一例。農林水産省補助事業で実施した、タイでの海外マーケティングの様子。

リスクをとっても広告会社が自ら「事業」をつくる

──今回は、従来の広告会社のビジネスに留まらない事業に携わる皆さんにお集まりいただきました。それぞれの担当事業について聞かせてください。

小柴:2013年に発足した「ソーシャルビジネス開発局」で、官公庁や地方自治体に対する提案を行っています。広告・コミュニケーション領域に留まらず、クライアントとともに事業をつくり上げていく案件が多いです。海外での事業開発にも取り組んでいて、例えば2014年にはマレーシアでデジタルサイネージ事業をスタートしました。

全国の自治体との深い関わりは、JR東日本グループの重要な資産。これを通じて蓄積してきた販路開拓や地域振興、人々の生活を便利にするサービス開発などのノウハウを、クライアントや自社の事業開発に生かしています。私自身は、交通媒体の部門に長く所属し、デジタルサイネージなど新媒体の開発にも携わってきました。ゼロから何かを生み出し、販売するところまで、事業を一貫して担当してきた経験を生かせているのではないかと思っています。

大野:マーケティング部門から広告会社でのキャリアをスタートし、デジタル部門を経て、現在は「オープン イノベーション ラボ」に所属しています。オープン イノベーション ラボは、今年7月の組織改編で発足したマーケティングイノベーションセンター内に設置されています。このセンターでは、クライアント事業の“成長”を実現するための戦略づくりの企画・運用を担っています。

事業の成長の鍵は、ドラッカーも言っている通り、マーケティングとイノベーションに他なりません。デジタルによって新しい可能性が広がりを見せている今の時代においては、生活者の顕在的な欲求に基づく提案だけではなく、新しい需要を生み出す価値や仕組みの提案がますます重要になってきています。

私たちは、世の中に新たな価値を生み出そうとしているベンチャーやスタートアップ企業の皆さんとパートナーシップを築き、社会実験と実装をしていく役割を担っています。私たちが目指すイノベーションベクトルは、「生活空間にデジタルを溶け込ませ、生活者一人ひとりの新しい行動を生み出す」こと。端的に言えば、“リアル空間でのデジタルブレンド”です。

東急エージェンシーの強みは、東急グループの一員として生活のリアルな場とつながっていることにあります。これを生かし、公共交通機関や商業施設、街中といったリアルな生活空間にデジタルの要素をゆっくりと溶け込ませ、「新しい生活行動を生み出すこと」を主眼に置いています。

例えば、東急線車両の中吊りにLINEビーコンを設置。移動中の生活者へ向けて、単に見るだけではない、スマートフォンを介した「Talkable」な企画を実施しました。また、スマートフォンアプリとビーコン端末を通じて商業施設の来館者の回遊ログデータと購買データを収集・分析してインサイトを把握、クラスタリングした顧客に対して適切な情報を適切なタイミングで届け、館内の回遊行動を促進するサービスを開発しています。

大野氏が携わる仕事の一例。東急線で初の「車両内ビーコン広告(中吊り×LINEビーコン)」を実施。

西村:読売広告社は、住宅・不動産領域で強みを発揮してきました。なかでも「都市生活研究所(都市研)」は、住生活者を対象とした研究活動を行うとともに、住宅・不動産関連企業のマーケティング支援を担っています。近年はクライアントのビジネスの上流部分、つまり事業開発や商品開発にも携わるようになりました。

例えば、エンタテインメント施設をつくる際、どんな施設をつくれば集客できるのか、データに基づいた戦略提案を行っています。ディベロッパーや不動産コンサルティング会社に近い業務が増えてきています。

──皆さんが携わる仕事と、従来の広告会社のビジネスとの、最も大きな違いは何でしょうか。

西村:先ほどお話したとおり、クライアントのビジネスの上流部分、ビジネスコンサルティング領域に踏み込んでいることです。これに伴い、報酬体系もフィー制への移行に向けて動いています。そこで重要なのは、都市研独自の提供価値をクライアントに認めていただくことです。

私たちの強みは、広告会社として培ってきた「生活者視点」。住宅・不動産業界のプレイヤーにはない視点を持つパートナーだからこそ、できることは何かを考え実行し続けることがますます重要になってきています。

大野:オープン イノベーション ラボの業務と従来業務との大きな違いは、いわゆる“受注業務”か、当社起点の“発信業務”か、というアプローチの違いにあると思います。従来の広告ビジネスは、クライアントからのオリエンが起点となり、それに対する答えを提示するのが基本的なフローでしたが、私たちの仕事には原則オリエンが存在しません。もっと言えば、オリエンから自分たちで定義しなければ、プロジェクトが始まらないのです ...

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