今年、開校から60周年を迎えた「コピーライター養成講座」。周年の今年は、様々なイベントを実施しています。6月24日には講座修了後、様々な道で活躍をしている修了生が登壇し、受講して得た経験やスキルがその後のキャリアにどう生きたのかを語る「講友会セミナー」を開催しました。本講座の修了生でもあり、「野ブタ。をプロデュース」などを手がけた作家の白岩玄さんと、安田健一さん(コピーライター/82期修了生)の対談をレポートします。
小説家は、なぜ講座に通ったのか
白岩:安田さんがコピーライター養成講座に通うきっかけは何だったんですか。
安田:もともとコピーライターになりたくて広告会社に入ったのですが、当時は営業の仕事をしていました。何とかしてコピーライターになりたいと、思って、仕事の合間に講座に通うことにしました。逆転するために、当時はただひたすら、TCC新人賞を獲るしかないと思ったんですよね。それが無理なら、諦めようと。白岩さんは、講座に通っているとき、金の鉛筆はもらえましたか?
白岩:何本かもらった覚えはあって、でも7位とか8位とか下の方でした。ただ1回だけ、ラジオCMの課題で運よく1位に選ばれたんですけど、あとあと考えたら結局それって小説と同じなんですよね。ストーリーと会話がちょっと良かったんだと思います。それ以外は本当に獲れなかった。その1点だけ評価されたのが自分の金の鉛筆の思い出ですね。
安田:僕も唯一、基礎講座で1位を獲れたのがラジオCMだったんですけど、会話中心のシリーズ広告で、キャッチフレーズというよりセリフや仕組み全体が評価されたものでした。
白岩:人と違う自分のやり口が見つかったりもしますよね。人それぞれ得意分野があって、一行を書くのが上手い人もいれば、ボディコピーみたいな長い文章を書くのが得意な人もいるし、ラジオCMみたいに場面を描くことで持ち味を発揮する人もいる。自分が何に秀でているのか、何が全然だめなのかが分かったのは講座に通って気づいたことでした。
安田:講義の中で印象に残っていることはありますか?
白岩:卒業制作で「阪急電車により多くの人が乗るためのコピー」の課題に取り組んだことが印象に残っています。当時はとがった表現が好きだったせいか、全然評価されなくて拗ねてたんです。でも、講師だった岡田直也さんが広告はごく普通の人のためにあるんだ、ということを評価を通じて、示されていた気がしました。そこで広告の仕事は自分には向いていないのかも、と考えるようになりました。小説と広告は全然違うんだということを暗に示された気がしました。
講座は小説の仕事にどう生きたか
安田:小説と広告における言葉の違いと共通点は何だと思いますか?
白岩:講座でいろんな先生たちがおっしゃっていたことって、結局「本当のことは何か」っていうことだったんじゃないかという気がするんですよね。言葉を発信する側が本当に思っていることじゃないと伝わらないし、同時に受け取る側にとっても本当だと思えることじゃないと伝わらない。
その送り手と受け手の両方にとって本当のことを探すというところは小説と広告の似ているところだと思います。一方で、小説は文量の制限もなければ口出しする人もあまりいないですし、その辺りは広告と違うかもしれません。安田さんは何か違うと思うことはありますか? ...