広告が見られなくなった背景
世界最大級の広告主であるP&Gは広告価値が毀損されているとして、ブランドセーフティでない場所への広告表示や、表示されていないインプレッションへの課金、広告詐欺の問題を指摘し、第三者評価機関の証明がないメディアは買わないと表明した。世界で利用されている第三者評価機関のIAS(Integral Ad Science)社は、特に対策がなされていない場合は、米国の広告費の13.2%は広告詐欺にあっていると発表している(日本は3.9%)。
広告が見られなくなった背景にはさまざまな理由があるが、そもそも従来のマスメディアと比較してインターネット広告、そして広告のみならずインターネット上のコンテンツの視聴態度や視聴行動が変化していることを理解せずに、ネット広告だけを「なぜ見られなくなったか」と議論しても、本質を正しく理解することは難しいだろう。
今までテレビを録画せず放送時間に見るためには、番組表を手に入れて(多くは新聞で自動的に家に届く)そこで自分が見たい番組を見つけ、時間を確認し、その時間までに家に帰るかどうかを数日前~当日までに判断して予定を立てていた。さらに家族がいる場合はその時間に家族の誰かが他の番組を見たいかどうかを事前に知り、話し合い、自分の見たい番組が見られるように調整する必要があった。
ここまで準備が必要ならば、一度帰宅してテレビの前に座ってしまえばトイレに行く以外は番組を楽しむだろうし、その途中に流れるCMも目に入るだろう。その番組がつまらなくても、そのまま見る人も多くいるだろう。他のコンテンツの候補は、その時間にやっている他局の数種類しかないのである。
一方でインターネット上のコンテンツはFacebookやYouTube、Twitter、Netflixなどアプリを開けば常に新しい情報が更新されていて、スクロールするだけで表示されるコンテンツがどんどん切り替わる。スクロールに終わりはない。これほど多くのコンテンツを自由自在に選べて、気に入らないものはたった少しスクロールするだけで画面から消えていく。コンテンツを探すのも、消すのもたったそれだけである。テレビのように事前の準備や誰かとの調整もいらない。
生活者は「いつでも」、「どこでも」、「すぐに」、「コンテンツのスキップができる」ことが当たり前なのである。この体験に慣れると、選択肢の少ない、強制的なものを嫌うようになるのは自明である。
マーケティング業界にとって重要な課題とは何か
「アドブロック」「ブランドセーフティ」「アドフラウド」。これらの意味や違いについて説明ができなければ、皆さんの会社が健全なインターネット広告活用ができているとは言えない。
言うまでもないが、今や生活者の可処分時間の多くはインターネット上で消費されている。いまテレビなどの既存マスメディアだけをマーケティング活動の中心に据えていると、届かない生活者が増えていると危機感を感じるべきである。
そしてマーケティング活動の中でも戦略的に行わなければいけないデジタル対応、その中でも重要なポジションであるネット広告では、P&Gが表明したような問題が起きている。この問題を理解し解決することで、御社のマーケティング戦略はより安全かつ確実に実行されるのである。
その問題は、広告主側の表現でいうと「ネット広告に予算を投下しても生活者に届いてない」ということである。「届かない」理由はいくつかある。「アドブロック」「ブランドセーフティ」「アドフラウド」という用語をそれぞれ解説しながら見ていきたい。
まず、広告主が出した広告が「アドブロック」という仕組みで生活者まで届かない状況が起きている。「アドブロック」アプリはスマートフォンから無料でダウンロードでき、このアプリをスマートフォンに入れると、ブラウザや、場合によってはアプリでもコンテンツを見ている時に表示される広告を非表示にすることができる。
世界では2016年3月までに、スマートフォン利用者中の16%に相当する2億9800万人がアドブロックを利用しているというデータがある。生活者にとって広告とは邪魔で排除したいものになったのである ...