インターネット広告の諸問題に関する議論は、米国広告界で先行して進んでいます。海外の広告業界メディアの報道内容や調査データから、その論点を概観します。
大手広告主2社がマス広告に回帰?
「Two of the world's biggest advertisers are cutting back on their digital ad spend」(ビジネス インサイダー 2017年6月26日)
世界最大級の広告主企業であるP&Gとユニリーバは、ここ数年にわたり、デジタル広告取引の透明性が改善されない限り、デジタル広告費を削減することも辞さない構えで、デジタルメディアに対し透明性を向上する仕組みを構築することを強く要請してきた。
両社は、デジタル広告費および出稿先メディア数を削減していると見られている。両社とも公式には発表していないが、広告調査会社のMediaRadar社の推計によると、P&Gのデジタル広告費は前年比41%減、ユニリーバは同59%減。P&Gは2016年1月~5月に1459件のメディアに広告を掲載していたが、2017年の同時期の掲載先は978件と前年比33%減。ユニリーバは606メディアに出稿していたのが540メディアに減ったという。
P&Gが2016年から2017年にかけて継続的に出稿しているメディアは712あり、この中にはYahoo NewsやBuzzFeed、Reutersなどが含まれるが、このうち560のメディアに対する出稿費を79%削減した。ユニリーバもNBC NewsやHealth and Timeをはじめとする268のメディアに継続して出稿しているが、その過半数を超える155のサイトへの出稿額を引き下げており、57%減となっている。
MediaRadar CEO/共同創業者のTodd Krizelman氏は「広告主は、エージェンシーやメディア、そしてテクノロジーパートナーに対して、デジタル広告の透明性をより一層向上するよう求めている。FacebookやYouTubeといったソーシャルプラットフォーマーに対しても同様で、その要求はこの数カ月でますます強まっている。我々の調査データを見ると、一部の大手広告主の間で、出稿メディア数とデジタル広告予算を削減する動きがあるようだ」と指摘する。
ユニリーバのCMO Keith Weed氏は、カンヌライオンズ2017においてThe Wall Street Journal主催のセミナーに登壇、「我々は、デジタル広告のサプライチェーンをより一層透明化する必要がある」とし、ブランド広告主はプログラマティックバイイングに注意を払うべきだと繰り返した。
P&GのCBO(チーフ・ブランド・オフィサー)であるMarc Pritchard氏もまた、デジタル広告の不透明性と、エージェンシーとの契約の煩雑さに懸念を抱いている。5月に行われた、全米広告主協会(ANA)のメディアカンファレンスの壇上で、「我々は、我々が納得のいくところに予算を投下する」と宣言した。
広告予算はテレビからデジタルへと急速に移行している(eMarketerの発表では、720億ドル=約8兆円規模)が、P&Gやユニリーバのように、幅広いブランドを抱える消費財メーカーは、精度の高いターゲティングが可能なデジタル広告よりも、より広範なターゲットにアプローチできるマス広告に回帰する可能性があるのではないかと、メディアエージェンシー Mediassociates社のBen Kunz氏は示唆する ...