ここ数年では珍しく、新部門の設置などのトピックがなかった今年のカンヌライオンズ。ここでは、インテグレーテッド部門、プロモ&アクティベーション部門、グラス部門、PR部門、チタニウム部門、データクリエイティブ部門、ダイレクト部門、サイバー部門のグランプリ受賞作を紹介する。現代の世界が抱える根源的な課題に挑戦した広告・キャンペーンが多く見られた。
01 インテグレーテッド部門・プロモ&アクティベーション部門
グランプリ
国民の政治参加促進と、ブランドイメージ強化を両立
ブースト・モバイル「BOOST YOUR VOICE」
日本ではmineoやUQ mobile、TONEモバイルなどが知られるMVNO(仮想移動体通信事業者)。米国のMVNOの一つであるブースト・モバイルが、2016年11月8日の米大統領選挙投票日に実施したキャンペーンが、インテグレーテッド部門およびプロモ&アクティベーション部門でグランプリを受賞した。
若年層を中心に投票率の低さが問題視され続けている日本。それに対し、欧米は一般的に政治への関心が高いと言われているが、民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)などが発表している各国の国政選挙の投票率を見ると、米国は先進諸国の中でも投票率が低い国であることがわかる。
特に低所得者層の投票率が低く、その原因として、「住んでいる場所から投票所までが遠い」「投票所の待ち時間が長い」といったことが挙げられる。オバマ前大統領が選出された2012年の選挙時も、1000万人もの投票者が長蛇の列をつくり、長いところで7~9時間待たされた人もいるという。
低所得者やマイノリティが暮らすエリアは税収が少なく、投票所や運営スタッフの確保が困難であることから、多くの人が遠方の投票所に足を運ばねばならず、また少ない投票所に人が集中するため混雑する。これが投票率の悪化につながるというわけだ。
そこでブースト・モバイルは、大統領選投票日、数百におよぶ自社の店舗を臨時の投票所として登録・開放した。加えて、投票を促すイベントを実施し、最寄りの投票所(店舗)を調べられるアプリも開発した。その結果、キャンペーン実施エリアにおける投票率を23%向上(全米平均6.6%向上)させる成果を挙げた。
社会的弱者にインフラを提供し、彼らが持つ権利を行使できるよう後押ししたのである ...