デジタル上でゼロからプロダクトやブランドをつくりあげてきた、デジタル領域に強みを持つ会社で働く若い人たちは、昭和時代に築きあげられた強大なブランド力をどのように捉えるのでしょうか。彼らが仕事をするなかで感じている価値から、そうしたブランド力を使うことで実現できるビジネスの可能性までを聞きました。
─昭和の時代に築かれたブランドの価値をどのように感じていますか?
鈴木:昭和から現代まで商品をつくり続けていること自体に、ものすごい力を感じます。何十年以上にわたって事故もなく、消費者が安心して食べたり使えたりするモノを提供し続けてきたという信頼感は、何ものにも変えられない価値ですよね。さらに、今でも各市場で圧倒的なシェアを誇っているケースが多いというのも、まさに国民的ブランドになっているからだと思います。それは消費者側から見た話だけでなく、対小売・流通などBtoBのビジネスにおいても、ブランドが強みになっている証拠ともいえるのではないでしょうか。
夏目:そうですよね。私も大手放送局など歴史あるメディア企業と仕事をする機会が多いのですが、品質を維持して、コンテンツをつくり続けてきた力は新興メディアが真似できないレベルを誇っていると思います。視聴者からの信頼は厚く、今も災害や有事の際は、多くの人がまずテレビをつけますから。実際に、その中で働いている彼らの"伝えること"へのこだわりも強い。
例えば最近、各放送局が画面上の津波警報を「津波!逃げろ!」というかなり強い表現に変えていますが、これもこれまでの経験からこれくらい強い言葉でないと、何千人もの人の命を救うことはできないと実感しているからです。そういった伝えることへの責任感が信頼を生むのだと思います。
鈴木:信頼できるものを提供し続けること自体が、大きなブランド価値ですよね。SNSなどあらゆる情報が流通する時代、何よりも"まっとうに"ビジネスをすることが大事になっています。昭和から現在も存在する企業は、愚直にお客さまに価値を提供し続けてきたのだと思います。そうした姿勢は、必ず相手にも伝わります。
─ 一方で長く続く企業やブランドは、課題も抱えています。
鈴木:日本の場合、ミレニアル世代(2000年以降に成人を迎えた世代)の人口が少ないため、彼ら向けのメディア・コンテンツはビジネスとして成立しにくい状況が生まれています。それでミレニアル世代が自らの求めるコンテンツを探し、ソーシャル領域に流れていく。接触するメディアが変わることで、せっかく昭和から築いてきたブランドにも断絶が生まれています。
夏目:放送局でも同じですね。若い層に向けた施策を打っても、なかなかブランドが届かないことに悩んでいます。例えば、YouTubeに動画を配信して何百万も再生されているにも関わらず、その動画を誰がつくって誰が配信しているのか、ほとんどの人は知らずに見ています。だからといって、単純に動画の最後に企業のロゴマークを入れたとしても認知してもらえない。
デジタルにおいてブランドを意識してもらう手法を新たに開発しなければならないのですが、どこもデジタルに特化した人材が不足しており、なかなか取り組みが進まない。とはいえ分散化は待ったなしの状況なので、どの放送局もYouTubeやTwitterなど外部のプラットフォームの活用を急いで進めている状況です。
─メディアが分散化した時代に、昭和時代に築いたブランド価値があるからこそ、さらに伸びるチャンスがあるのでしょうか。
夏目:そうだと思います。たとえばテレビ番組をつくる際、大学教授や著名人などにインタビューに行きます。そこで番組とは関係のない、面白い情報を聞くこともあるでしょう。そこで得られた貴重な一次情報を、テレビに限らず大手メディアはたくさん持っていますが、それをいつでも使えるような状態でデータベース化することができていません。これでは、宝の持ち腐れです ...