01 グローバルメガビジネスVS新ライセンスビジネス
―独自のポジションを築くには
アマゾンジャパン ✕ フィールズ/円谷プロダクション
ーブランディング戦略についてお考えをお聞かせください。
桑田:当社は、顧客重視の考えが日々の業務や評価で問われる会社です。ただ、ECという業態ゆえにお客さまとの直接的な接点が少なくなりがちです。そのため、お客さまへ便益を伝えることを通じて、同時に私たちの思いを届けたかった。そこで、最近の取り組みとして商品が早く届くサービス「Amazon プライム」に焦点を当てたCMをつくりました。
佐藤:2015年に立ち上げたライセンスブランド「A MAN of ULTRA」は、「日常の世界にウルトラな男を創り出す」というコンセプトを形にしています。ウルトラマンを見て育った大人たちに、「今度はあなた自身がヒーローになってほしい」というメッセージを届けるのがミッションで "ウルトラな男にふさわしい"ライフスタイル全般のものづくりを多様な企業ブランドとともに展開しています。
桑田:UGCなど多様なクリエイティビティを使おうとすると、ブランドイメージから離れるリスクがあります。そういう時こそ、ブランドの持つ価値観や世界観をきちんと定義し、お客さまの気持ちをエンゲージしていくことが重要でしょう。そこがブレると、ブランドが理解されないリスクもある。ブランドのコアの価値観をどれだけ伝えていけるかが鍵であり、ブランドマーケターにとって大変さであり喜びでもあると思います。
佐藤:私たちがEC展開で決めたのは、原則、セールをやらない、ポイントを付けない、在庫を抱えないことです。一方で、中~高価格帯の商品をきちんと売らなくてはいけない。だからこそ、最初の1年間は売上よりもブランド認知を優先して、世界観を伝えるサイトに特化しました。まだ小さい規模感ながら、戦略を立てて貫き通せば、ブランドは成長していけると感じています。
02 デジタル時代のマーケターが考えるべき
先のビジョンを見据えた戦略
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル ✕ AIGジャパン・ホールディングス
ーデジタルシフトに伴ったブランドの進化について取り組みやお考えをお聞かせください。
友松:当社ではビッグデータの解析によって、利用可能額の瞬時算出やアプリやサイト上での顧客体験のパーソナライゼーションを実現しました。例えばお客さまのカード利用の行動履歴から判断し、対象ホテルが1泊分無料になる特典をご案内するなどです。今後改良しもっとアップデートしていきたいと考えています。
ヒース:当社では、オンラインでのコミュニケーションに力を入れています。例えば、現在展開している事業戦略コンセプト「ACTIVE CARE」の認知を日本で高めるため、今年3月末より、ムービー「タックル・ザ・リスク」を公式SNSで公開しました。今後も話題になるようなコンテンツを提供し、ブランド認知をさらに高めることを目標としています。
友松:良い動画ですよね。デジタル環境は日々、進化していますが、私たちマーケターは、その時何ができるかを考え準備していくことが重要だと思います。当社が米国でサービスインしている事例としてアマゾンが提供するクラウドベースの音声認識サービス「Alexa」との協業をご紹介します。「Alexa、Open、Amex」と装置に話しかけると、支払いやオファーの獲得、利用金額の確認ができます。お金のマネジメントが音声で簡単にできる時代が来ます。
ヒース:時代は先へ先へと走っているので、これからのテクノロジーをどう活かしていくか、マーケターが確固たるビジョンを持って、考えないといけないと実感しています。まず「ACTIVE CARE」の認知をさらに広げ、ソーシャルメディアと、ビジネスにつなげるためのフレームワークづくりに取り組んでいきます。
友松:米国に一時期いて実感したのがマーケティングや広告は、顧客のバックグラウンド、どこで琴線に触れるかが国によって違っているのですが、国境を超えても人の感性といった肌感覚は変わらずに大事だと感じています。
03 企業のデジタルシフト
―顧客接点の多様化はビジネスチャンス
ユナイテッドアローズ ✕ モスフードサービス
ー店舗を通じてどのようにブランディングやマーケティングに取り組んでいますか。
高田:衣料品全体のマーケットが低迷する中、ECサイトでの売上シェアは伸びています。そこで、2016年で10年目を迎えた当社のハウスカードも戦略を見直しました。店舗会員とECサイト会員の顧客情報を統合、ポイントも一元化し、シームレスにポイントを使えるようにしました。リアル、デジタルに捉われず、シームレスなチャネルを開発してお客さまとタッチポイントを増やすことが重要です。
齊藤:当社も2012年に発行したプリペイドカード「モスカード」に始まり、2015年には、スマートフォンやパソコンから注文する「モスのネット注文」を全国1300店舗以上で導入しました。「自分のペースでゆっくりと商品を選びたい」という潜在的なニーズともマッチして、注文数は年々増えています。日常生活の中でブランドを思い出してもらう手段として、スマートフォンを始めとするデジタル施策は欠かせません。
それでも、店舗が一番重要なお客さまとのタッチポイントになるのはこれからも変わらないと思います。当社では「ご来店になる瞬間」「商品を一口食べる瞬間」「お帰りになる瞬間」の3つを非常に大切にしています。これらの瞬間を気持ちよく笑顔で提供できないと、いくらデジタル施策で集客できたとしても、最終的にはお店の評価に影響します。だからこそ、商品や接客サービスなどお客さまの期待値をフォローしていく形で、デジタル施策を拡充したいと考えております。
高田:一人でも多くのお客さまにご来店いただき、一枚でも多くご購入いただき、最終的にファンになっていただきたい。そのために今後は、店舗スタッフの接客サービスを支援するとともに、新しい商品やサービスにつなげるためにも、来店履歴や試着履歴などにも着目したいですね。
04 新カテゴリーを創造した製品
顧客との実接点で起きたこととは
レノボジャパン ✕ 資生堂ジャパン
ーレノボジャパンの新製品キャンペーンの概要と目的をご紹介ください。
能戸:当社の新製品のタブレット「YOGA BOOK」は新たなカテゴリー創造製品と位置づけています。その価値を知ってもらうには、顧客に体験してもらうタッチ&トライイベントが必要と考え、実施しました。
音部:プランニングするとき、何を持って成功と定義づけたのでしょうか。
能戸:まず、認知を高めることが目的でしたので、イベントのKPIは参加者数になります。もうひとつ、ブランドイメージの浸透という目的もあり、ターゲット層はミレニアル世代を想定していました。ところが、体験イベントには、ミレニアル世代より上の世代にも関心を示してもらいました。
ー『なぜ「戦略」で差がつくのか。』の著書でもある音部さんですが、レノボジャパンさんのイベントは、戦略としていかがですか。
音部:マーケティング戦略の中で、ターゲット層へのベネフィットが途中で変わるというのは本来はあるべきではありません。でも、イノベーションで何が起こるか予想できないときは、できることから始めてまずは観察点を増やしてみる、というのも手です。今回は会場での消費者との具体的接点の中で、当初のターゲット層を現場合わせで修正していったのですね。
能戸:そうですね。私たちは戦略を組み直し、実売貢献という新たに設定したKPIもクリアしました。今回のことで体験が顧客にとっていかに大事かを感じましたね。体験してもらうことでお客さまの中にオーナーシップが生まれ、ずっと保持したいという気持ちになる、ここがとても大切なんだと実感しました。
音部:今回の事例では、しっかりしたマーケティング戦略があったからこそ、途中でターゲットのコンシューマーやベネフィットが変わっても、新しいラーニングを経験値にすることや、現場の情報に基づいてプランニングの改善できたという印象を持ちました。