2018年に創業100周年を迎える、パナソニック流の宣伝に迫る対談。第5回は「美容・健康の広告篇」です。ヘアーケアやフェイスケア、フィットネス機器といった美容・健康家電の数々。その広告では、商品の機能だけでなく見る人を引き込む"美しさ"も表現してきました。今回は「きれいなおねえさんは、好きですか。」シリーズで初代モデルを務めた女優・水野真紀さんと、同シリーズを担当したプロデューサー・齊藤洋久さんの対談です。
「きれいなおねえさん」の裏側にあるメディア戦略
-「きれいなおねえさんは、好きですか。」のキャッチフレーズを使った広告は、15年以上続き、当時の認知率は9割を超えました※。初代「きれいなおねえさん」を務めた水野さんご出演のCMは、どのように生まれたのでしょうか。
齊藤:パナソニックの宣伝担当の方が来社され「化粧品のようなCMをつくってほしい」と頼まれました。おしゃれに電化製品を表現してほしい、と。ですから商品説明はわずかで、後は水野さん扮するおねえさんの日常を映したCMをつくりました。
水野:弟がいる設定で、部屋でくつろぎながら、顔そりをしたり脱毛器を使ったりするシーンを撮影しましたね。部屋のセットもおしゃれで作り込まれていました。
齊藤:美容商品は6つあって、それまで商品ごとに広告を制作していたのですが、どれも女性がきれいになるための商品ですから「まとめて同じコンセプトで宣伝しましょう」と提案しました。1商品だとCMの露出量も限られますが、まとめて宣伝すれば、十分に目立ちます。
水野:横串を通したコピーが「きれいなおねえさんは、好きですか。」だったのですね。
齊藤:商品名を覚えられなくても、店頭で「きれいなおねえさん」の商品と言ってもらえば、買ってもらえると思いました。
水野:どうしてパナソニックさんは私を選んでくださったのか、といまだに思います。
齊藤:「きれいなおねえさん」には「もしかしたら、ウチの隣にいるかもしれない」と思わせるリアリティーが欲しかったんです。当時の水野さんは、まだ売れっ子というわけではなくピュア。CMとともに人気が出て成長して、世の中の人が「ますますきれいになってきたね」と思えば、「きれいなおねえさん」とパナソニック、そして水野さんを結ぶ図式がしっかりできます。こうしたことは多少計算していましたが、水野さんのご活躍は想定以上。「きれいなおねえさん」はすっかり水野さんの肩書になりましたね。
水野:ありがたいことに今でも言われることがあります。
最後の2秒に込められた想い
-CMの最後の2秒は、男性とデートしているおねえさんが映り、弟の台詞で「きれいなおねえさんは、好きですか。」と入ります。どのような意図があったのでしょう。
齊藤:広告はすぐ自分の商品を褒めたがるものですが、少なくとも水野さん自身に「きれいでしょ」とは言わせたくありませんでした。他人が「きれいになったね」と言うから真実味があります。弟は家の中でふだんおねえさんを見ていますから、きれいの秘密を知っている。CMの最後で、彼氏と会うおねえさんの、いつもと違う一面を見せ、弟のモノローグにすることで、客観的に商品の良さを伝えたかったんです。モノローグは妹でも良かったんですが、弟のほうがドキッとするでしょう?
水野:確かにそうですね。私は絵コンテを見たとき、CMで伝えたいことは最後の2秒のデートシーンに凝縮されると思いました。自分が少しでも素敵に見えないと、CMとして成り立たないと思い、誰かを好きだったときの気持ちをたくさん引っ張り出して、自分がどう見えているのか、モニターを確認しながら演じたのを覚えています。
齊藤:水野さんが企画の意図を理解して、家の内と外で異なるおねえさんの姿をうまく演じ分けてくれたから、女性の共感を得ることができたし、CMのシリーズとしても長続きしたのだと思います。でも実は、最後の2秒のシーンはやめて、商品の機能をもっと強調してはどうかという意見もあったんです。
水野:肌がツルツルになるとか、処理が簡単といったことを言ってほしかったのでしょうか。
齊藤:そういうことです。でも、最後の2秒がなければCMは全く意味をなさなくなります。それでパナソニックの宣伝担当の方と一緒になって、必死に上層部を説得しました。「ほかのことは何でも聞きます。修正もしますから、この2秒だけは譲れません」って。「そこまで言うなら」と採用していただけました。
水野:その決断がなかったら私もここまで世に出ていなかったかもしれません。「きれいなおねえさん」は5年も担当させていただきました。
齊藤:パナソニックの社員の方はすごく真面目ですし、商品への思いが強いですからね。当時の宣伝担当の方は、大きな要望だけくれて、細かいところは任せてくれたんです。だから私も裏切れない。必死でした。
水野:商品は時代を先駆けたいいものでしたね。痛みを和らげた脱毛器は、撮影時に試してみて感心しましたし、ドライヤーも蒸気が出て、ただ髪を整えるのではなくケアする時代に、細部まで気を遣う時代になったのだと思いました。当時、バブル期を経てみんな目が肥えていましたから、家でプロ並みにセルフケアができる商品は受け入れられやすかったのかなと思います。
-現在、美容・健康商品は「パナソニックビューティ」ブランドとして打ち出され、国内だけでなくグローバルの展開も進んでいます。パナソニックのものづくりや、広告のこれからについて、どのようなことを期待されますか。
水野:「きれいなおねえさん」のCMに出演していた頃は、男性の目を意識しながら、女性がきれいになっていったところがあったと思います。でもある時期から女性は、自分のためにきれいになり、異性の目を気にしなくなったように感じます。こうした女性の意識の変化をとらえる姿勢は、これからも大切にしてほしいですね。
齊藤:パナソニックは色に例えるとピュアな水色のイメージ。そこに濃い青をちょっと垂らしてドキッとさせたらどうなるだろう。広告制作のときは、いつもそんなことを考えていました。海外への発信においては、言葉だけでは思いは伝わりにくいのでビジュアルが重要になります。
そしてドキッとさせたり、クスッとさせたりは万国共通。いい商品であることを訴えるのは当然ですが、そこに笑いやピリッとオチを利かせて「パナソニックは真面目でいい商品をつくるけれど、ユーモアがあるね」と海外でも言われる表現をしてもらいたいです。
水野:パナソニックは人材や伝統を大切にされている、日本を代表する会社。創業者である松下幸之助さんが、「商売とは、感動を与えることである」という名言を残されていたと記憶しています。働かれている社員の方々が胸を張って「これはうちの商品だ」と言える、世界中の人の心を動かすものを今後も社会に送り出し、そうした商品の広告を続けてほしいです。
Future 年齢・性別・国境をこえて広がる
1935年発売のヘアードライヤー1号機にはじまり、「きれいなおねえさんは、好きですか。」で多くの女性から支持を得たパナソニックの美容家電。女性の社会進出が活発になるにつれて、美容への目的が身だしなみを整えることから自分に自信を持つことへと変わって、美容家電の役割も変化しています。こうした「パナソニック ビューティ」家電はアジアをはじめとした海外にも、女性の美しさを手伝う、憧れの家電として広がっています。
また、メンズのビューティも男性の身だしなみ意識の変化に合わせ、ラインアップが変化。健康家電もマッサージャーは疲れをいやすだけでなく、美しくあるためのリフレへと幅が広がり、体づくりを応援するフィットネス機器も加わりました。年齢、性別、国境をこえて広がる美容・健康家電。これからも家電でできることは変化し、増えていくことでしょう。