どれだけ新しいテクノロジーを駆使したところで、ターゲットの心理や心情の深い理解なしに、心に届くキャンペーンは実現し得ません。
それならば人の心を捉え、行動を喚起した広告キャンペーンを読み解けば、その背後には、人の根源的な欲求や心理が見えてくるのではないか…。そんな仮説のもと、世界の秀逸プロモーションを100点弱集めてみました。
事例を選定し、さらにその背後にあるインサイトを分析・解説していただいたのは、日本に留まらない活躍をされている12名のクリエイターやプランナーの方々。
12名の「選者」の方々に国内外の秀逸事例を解説いただきながら、有意なインサイトを得る方法から、そのインサイトを具体的な施策に落とし込む際のポイントを考えていきます。

ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン
エグゼクティブクリエイティブディレクター
曽原 剛(そはら・ごう)
博報堂にてコピーライターとして活躍後、ロサンゼルスのTBWA\Media Arts Labに移籍。グループ・クリエイティブ・ディレクターとして、数多くのAppleのグローバルキャンペーン開発に携わる。2014年から現職。
事例の選定テーマ
新しいブランド体験
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
自分のために買うギフトが一番楽しいという、人類の本音。
ハーヴェイ・ニコルズ「Sorry, I Spent It On Myself」
高級百貨店であるハーヴェイ・ニコルズは、クリスマスのギフト商戦期において、競合他社がやるようなありきたりな家族向け・恋人向けのキャンペーンを行うのではなく、買い物好きの心理にある「自分のために散財するGuilty pleasure」をくすぐる本キャンペーンを展開した。
実際の施策として、ただ単にテレビCMやオンライン広告をつくるだけではなく、安全ピンやお風呂の栓など、実際にギフトとしてはあり得ない、安価で嬉しくないものを「Sorry, I Spent It On Myself(ごめんね、自分のためにお金は使っちゃった)」というシリーズ商品として、店頭で販売した。
コアアイデアの秀逸さとともに、細部にわたってやりきる徹底ぶりが、このキャンペーンを際立たせ、大きな話題喚起と売上増大へとつながったと思う。ちなみに、このキャンペーンのためにつくられた、これらのくだらないギフト自体も、即日完売になったそうだ。
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
理不尽は、シンプルに可視化すると説得力が増す。
銃規制を求める母親の会「Groceries Not Guns」
日本からだとなかなか理解できないことが多い、アメリカの銃規制にまつわるキャンペーン。「母親目線で銃規制を訴える」団体が行ったこのキャンペーンは、さまざまな形で表現されてきている銃規制キャンペーンのなかでも、シンプルでありながらも、非常にユニークな視点でつくられ、大きな成果をあげたものだ。
それは、「クローガー」をはじめとした、アメリカの多くのスーパーマーケットチェーンでは、「スケートボードやペットは禁止されているのに、銃は店内を持ち込める」という、ある意味理不尽なルールを逆手にとった施策だった。そのことを表現したインパクトのあるプリント広告を展開したほか、コールセンターの社員にこのおかしなルールを問い詰める音声を公開するなどの施策も行った。結果的に、メディアや市民からの多くの共感と支持を得て、多くのスーパーマーケットチェーンがその方針を変更するという結果に結びついた。
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
何気なく使っている言葉自体に差別問題は潜んでいる。
The Women’s Foundation「#MyRealCarrierLine」
性別や人種の差別問題の根っこは、日々何気なく使っている言葉にこそ眠っていることが多い。このキャンペーンでは、広東語で使われている「キャリアライン(事業線)」という言葉に注目し、女性の地位向上を訴えている。この言葉、実は、女性の胸の谷間を表すときに使われる。おそらく、「谷間が深ければ深いほど良いキャリアを築ける」という、考えてみると非常に偏見に満ちた言葉の使われ方だ ...