どれだけ新しいテクノロジーを駆使したところで、ターゲットの心理や心情の深い理解なしに、心に届くキャンペーンは実現し得ません。
それならば人の心を捉え、行動を喚起した広告キャンペーンを読み解けば、その背後には、人の根源的な欲求や心理が見えてくるのではないか…。そんな仮説のもと、世界の秀逸プロモーションを100点弱集めてみました。
事例を選定し、さらにその背後にあるインサイトを分析・解説していただいたのは、日本に留まらない活躍をされている12名のクリエイターやプランナーの方々。
12名の「選者」の方々に国内外の秀逸事例を解説いただきながら、有意なインサイトを得る方法から、そのインサイトを具体的な施策に落とし込む際のポイントを考えていきます。

オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン
チーフ・クリエイティブ・オフィサー
Ajab Samrai(アジャブ・サムライ)
1987年Saatchi&Saatchi入社。多くのグローバル企業の広告を手がける。2013年Ogilvy & Mather JapanのCCO就任後、その強力なリーダーシップのもと、オグルヴィを外資系代理店として日本で最も広告賞受賞数が多く存在感あるオフィスへと急成長させた。
事例の選定テーマ
ソーシャルグッド
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
日本は「難民問題」への取り組みに対して消極的。
国際難民支援協会「The Refugee Collection」
国際難民支援協会(RIJ)は寄付を必要としていたが、日本で寄付金を集めるのは常に難しい。難民問題は日本人にとって遠く離れた土地で起こっている現象と見なされ、メディアでも滅多にトップニュースとしては取り上げられないからである。そこで、ソマリアからミャンマーまでの世界各国から、難民たちの悲惨な生活を象徴する100点以上の限定品を販売するポップアップ・ストアをつくった。
すべてのアイテムは難民によって寄贈されたもので、売上はすべて難民に還元された。限定品の各アイテムは、特注したパッケージに梱包。それぞれのパッケージの外側はごく日常的に見えるものだが、中には難民たちの置かれた悲惨な状況を体現するものが入っていた。さらには、寄贈者の実名とアイテムの背景にある物語も書かれていた。
ポップアップ・ストアの訪問者は1200人超。アイテムは48時間以内に売り切れ、過去に実施した寄付金募集活動すべての実績をはるかに超えた。Web、テレビ、新聞に取り上げられ、メディアインプレッション数は総計3300万以上を獲得した。
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
ホームレス問題は、できれば見て見ぬふりをしたい…。
ADOT.COM「Homeless Lights」
英国におけるホームレスの数はこの年9万3000人を超えた。ADOTは、ホームレスの人々をサポートするNPOである。自己満足に浸りがちでこの問題を認知しようとしない世間一般の人々からの寄付を募ること、またこの問題の認知度を向上させることを目指したのが、本プロジェクトだ。
クリスマスの時期に見られる(世間一般の)「喜び」の感情を、その喜びから置き去りにされた人々の悲しみとを並置して表現するため、実際のホームレスである人々をクリスマスの電飾で飾りつけ、心に焼きつくような怪奇的ビジュアルをつくり出した。さらには、Radiohead の名曲『Creep』を、独特のアレンジで使用した。結びでは極めてシンプルな質問を視聴者に投げかけている。
「今年のクリスマス時期には9万3000人以上の人がホームレス状態にあります。何をすれば彼らに気づいてもらえるのでしょう?」。BBC、ガーディアン、ユーロニュースなどのグローバル媒体に露出した結果、数百万ポンド相当のアーンドメディア価値を得た。
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
富士山は自然豊かで美しくあり続けてほしい。
富士山クラブ「The Mt Fuji Rubbish Billboards」

富士山は、日本の最も象徴的なシンボルの一つである。同時にゴミが大量に捨てられる場所にもなってしまっているというのが残念な事実だ。そこで、富士山が抱える悩みそのもの、つまり「ゴミそのもの」で富士山を縁取るようなビルボードを制作し、現地に設置することで、訪問者に直接訴えた。これらゴミでできた額縁には「このフレームは富士山に捨てられていたゴミでできています。富士山を美しく保ちましょう。寄付及びボランティアは富士山クラブまで。」というメッセージが記された。
2013年の世界文化遺産登録後、あまり話題にもならなくなった富士山のゴミ問題への認知を促すきっかけとなった ...