どれだけ新しいテクノロジーを駆使したところで、ターゲットの心理や心情の深い理解なしに、心に届くキャンペーンは実現し得ません。
それならば人の心を捉え、行動を喚起した広告キャンペーンを読み解けば、その背後には、人の根源的な欲求や心理が見えてくるのではないか…。そんな仮説のもと、世界の秀逸プロモーションを100点弱集めてみました。
事例を選定し、さらにその背後にあるインサイトを分析・解説していただいたのは、日本に留まらない活躍をされている12名のクリエイターやプランナーの方々。
12名の「選者」の方々に国内外の秀逸事例を解説いただきながら、有意なインサイトを得る方法から、そのインサイトを具体的な施策に落とし込む際のポイントを考えていきます。
事例の選定テーマ
ショッパーインサイト
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
よく考えたら、ここもあそこも不衛生。
ユニリーバ Lifebuoy「Handle on Hygiene」
人々の衛生に関する関心は高まりを見せている。この人々の衛生に対するニーズと、それを特に意識するその時を捉えたキャンペーンだ。ショッピングセンターでは、誰もが入店するや否やショッピングカートのハンドルに手を置き、会計を終えて荷物を車の荷台に載せ替えるまでその手を放すことはない。人々の負担を軽減し、買い物自体を楽しむことを手助けしてくれる。しかし、このカートは細菌の宝庫でもある。
ある調査では、一つのカートに100万の細菌があると言われる。中東地域最大のショッピングセンター「カルフール」には、毎日1万人以上のショッパーが訪れる。ユニリーバはこのショッピングカートを絶好のコミュニケーションツールと考え、カートの取っ手をLifebuoyで簡単に一拭き除菌できる装置を用意した。Lifebuoyの除菌率は99.9%を誇る。必要とされるその時を捉え、商品の特性を見事に訴求し、セールスは53%も上昇した。
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
合理主義で知られるドイツ人も、実は結構イタリア車好き。
マセラッティ「Italian Art of Persuasion」
合理主義で知られるドイツ人は、社用車を検討する際、まずAudi、BMW、Mercedesを検討する。それらのショールームは1700カ所にも及び、マーケティングバジェットもそれに相応しいものだ。そんな状況下で、エキゾチックで高いというイメージを持つイタリア車が、わずか22のショールームでドイツ車を抑えて契約を獲得するのは非常に難しいと考えられる。が、マセラッティはマセラッティ・ギブリの社用車としての合理性と、合理性を超えるイタリア車の魅力を見事に訴求した。
本キャンペーンのからくりはこうだ。Audi A6、BMW 5 Series、Mercedes e-classのテストドライブという検索キーワードをジャックし、ギブリが2015年のドイツの社用車オブ・ザ・イヤーに選ばれたことを伝えると共に、ギブリを運転して各社のテストドライブに行くというスペシャルオファーを提供した。テストドライブに向かう道すがら、そのラグジュアリー感、乗り心地、さらに社用車としての合理性を確認してもらう機会を与えたのだ。2週間で、クリック率8%、テストドライブ150%を記録したばかりか、コンバージョン率10%アップを実現させた。
広告・キャンペーンが捉えた「インサイト」
より楽しく、より得したい。
Intersport「The Ad That Ran」
健康志向の風を受けて、昨今ジョギングが人気だ。チェコでも、ジョギングをしてSNSで伝えることがブームとなり、ジョギングに興味がある人もない人も、とりあえず友人が走ったという投稿にLIKEをしていた。
そこで、スポーツリテーラーのIntersportがランナーをメディアにするキャンペーン「The Ad That Ran」を行った。「#ISRUN」というハッシュタグと共に、ISというブランドロゴを描いたジョギングルートをSNSに投稿すると、距離に合わせたディスカウントが受けられるというシステムだ。100%ディスカウントを得るために100キロメートル走る参加者まで現れた。単調になりがちなジョギングに新たな楽しさ加えるとともに、人々に共感してもらいたい若者のニーズを上手く捉えたことで、Intersportを最もトレンドなスポーツブランドに押し上げた。
次々と新たなテクノロジーやサービスプラットフォームが出現し、目を奪われがちだが、本キャンペーンはアプリを限定せず、また特別なアプリも開発しなかった。ゆえに、キャンペーンの広告費はゼロ。それでも1カ月間のセールスを16%もアップさせた斬新なキャンペーンだ ...